581.季語の似合う場所(2012.8.6掲載)
東京農工大学の荻原教授は、スペースが必要で採算が取れないといわれてきた植物工場での果樹栽培で成果を上げている。ブルーベリーの連続生産に成功したのだ。 通常、ブルーベリーは3月頃に芽が出て4〜5月に開花。6月頃から果実が生長する。収穫期は7月頃から9月上旬。その後、4〜5ヶ月間の休眠に入るのだが、この休眠期間もブルーベリーに働いてもらうことで、年2回の収穫が可能となった。 休眠回避のヒントは、2010年猛暑の夏に季節外れの花が咲いたこと。その年、9月以降も工場内を30〜35℃、日照時間16時間という高温・長日状態にしたところ、休眠時期のブルーベリーが実をつけてくれた。 さらに、震災後の節電もヒントになった。節電で温度を10℃以下、日照時間を12時間にしたところ、低温・短日が引き金となって新しい梢に花芽ができた。 つまり、高温・長日と低温・短日を交互に繰り返すことで、花と実が同時につく状態を維持し、果実の連続生産が実現したのだ。 四季折々の温度条件や日輪の出入りに人類の叡智を重ね、果樹の生長として昇華させる。まさに、日本人にぴったりの研究ではないか。 ふと、国文学者中西進先生の季語に関する随筆が目にとまった。 そこには、長日、短日、高温、低温という気象用語に相対するように、「夜長(よなが)」「短夜(みじかよ)」「涼し」という季語が解説されていた。 夜長…夜が一番長いのは冬だが、俳句では夜長を秋の季語としている。秋の彼岸を過ぎ、どんどん夜が長くなっていく実感こそが日本人の季節感であって、物理的な時間の長さではない。 短夜…ところが、短夜は物理的な長さと同じ夏の季語。あっという間に夜が明けてこその短夜だという。 涼し…これぞ極めつけ。涼しは高温ただ中の夏の季語。風鈴の音に涼しさを感じ、キンキンに冷やした西瓜に涼を求めるのだから、「涼しい〜」という温度感は夏のものなのだ。 年中果物にかぶりつきたい果物好きの私としては、今後の東京農工大学の成果に期待を寄せるばかりである。 俳句を吟じながら朗報を待つとしよう。
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