582.イギリスとオランダ(2012.8.20掲載)
イギリスとオランダ、どちらも郷土料理の名前である。 「イギリス」は島原半島の郷土料理で、「イギス」という海藻から寒天を抽出し、米ぬか、さば、きくらげ、にんじん等をブレンドして固めたもの。 おもしろいことに、愛媛県の今治地方にも「イギス豆腐」と呼ばれる同様の料理があって、どうやらこちらがオリジナル。島原の乱で住民が全滅した島原半島南部に四国人が移住したらしいが、この時に料理も移動。国際都市島原で「イギス」が「イギリス」に変化したにちがいない。 ちなみにこの料理、あまりおいしくない。 一方の「オランダ」は大分県国東半島の郷土料理で、なすとにがうりを味噌で炒め、小麦粉でとろみをつける「ちゃんちゃん焼き」のようなメニュー。まあまあおいしい。 水分の多いなすを油で炒める時の音がうるさく、「大きな声を出す」という意味の大分弁「おらぶ」から名付けられた。わが郷里でも「おらぶ」はよく使うからわかる。「おらぶ」の過去形が「おらんだ」なのだ。 ところで、イギリスとオランダという国名を冠する二つの郷土料理が、どちらも半島に根付いていることは偶然だろうか。海原に突出した出自には、住民を自然と国際人にする力があるのかもしれない。それ故のネーミングか。 イギリスとオランダといえば、戦時下のABCD包囲網を思い出す。 ABCD包囲網とは、日中戦争が始まって5年目の1941年、東アジアに権益を持つアメリカ(America)、イギリス(Britain)、オランダ(Dutch)が行った日本に対する経済制裁の別称である。対戦国の中華民国(China)を加えた頭文字を並べ、ABCDとした。 このABCD包囲網により日本は追い詰められた。制裁解除の交渉も不条理な交換条件ゆえに決裂し、日米開戦を決意せざるを得なかったのだ。 まさか経済制裁の腹いせに食べていたわけではあるまいが、「イギリス」と「オランダ」は負の歴史を呼び覚ます半島の郷土料理なのである。
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