584.腹の虫(2012.9.3掲載)
怒りの感情を表現する際、「腹の虫が治まらない」という慣用句をよく使用するが、この「腹の虫」が実在することが証明されつつある。 具体的には、腸内細菌が人の思考や感情に影響を及ぼすという研究である。 体内の寄生体に行動をコントロールされるなんて、まるでSF映画の世界であるが、自然界にはそうした事例がいくつかある。 例えば、トキソプラズマ・ゴンディイという単細胞の寄生生物に感染したマウスは、なんとネコのことが大好きになる。当然、そのマウスはネコの餌食となり、結果、トキソプラズマは新たな宿主を得る。 また、冬虫夏草属の菌類がアリに寄生すると、脳を食いつくす前にアリを草木の上の方に登らせる。アリが死ぬと頭部からキノコのような子実体が生えてきて、高い位置から胞子を遠くまで飛ばすことに成功するのだ。 さて、人間はどうか。 われわれの腸内には500種、100兆個の微生物が住みついているといわれるが、その菌種は人によって異なり、ふだん使用しているパソコンのキーボードを綿棒でぬぐうと簡単に調べることができる。 腸内細菌の違いと性格との関係は解明途上。ただ、精神疾患の症状や薬の効き方が患者によって異なったり、腸内細菌の種類が少ない人は太りやすかったりという事例を考えると、共生する微生物が思考や感情に関与していることは否定できない。 「腸は第2の脳」なのだ。 マウスの実験では、特殊な環境下で育てた腸内細菌ゼロのマウスはストレスに弱いが、このマウスにビフィズス菌を与えると通常のマウスと同じストレス応答になったという。 やはり腹の虫は居るに違いない。 今度、腹の虫が治まらなくなった時、ビフィズス菌を飲んでみようと思った次第である。
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