587.おもしろい酵素(2012.9.24掲載)
味噌、醤油、納豆などの発酵食品が身近にあるせいか、日本の研究者は酵素の扱いがうまい。珍しい酵素を見つけたり、意外な応用法を開発したり。 先日も、海洋研究開発機構の小林博士が、深海に生息する「カイコウオオソコエビ」から紙を分解する酵素を発見、というニュースを見た。極限環境で頑張る生き物には、優れた活性の酵素が存在する。 紙を分解してブドウ糖ができるということは、おがくずが食糧に変わるということで、科学者はそんなおもしろい酵素を探しているのだ。 すでに活躍中のおもしろい酵素をいくつか紹介する。 数の子にカタラーゼ…数の子の製造では色の改善目的で過酸化水素水を使用するが、過酸化水素は食品中に残留してはいけない。そこで、過酸化水素分解酵素であるカタラーゼを使用する。お正月の縁起物にも最先端の酵素化学が潜んでいる。 食洗機用洗剤にアミラーゼ…食洗機が日本に浸透し始めた当初、同時に入ってきた米国製の洗剤は、アメリカンな油汚れを落とす設計になっていた。しかし、油分解酵素のリパーゼは米飯汚れが苦手。よって、日本オリジナルの食洗機用洗剤は、デンプン分解酵素のアミラーゼを中心に設計されている。 ジーンズにセルラーゼ…青き10代の頃、履き古した感じを出すべく漂白剤を張った風呂桶でブルージーンズの脱色に挑戦した。結果、漂白剤のさじ加減を間違え、ほとんど白に近い超ケミカルウォッシュとなってしまって大失敗。今日の繊維業界で古着感を出すのは、繊維を分解しつつインディゴ染料を脱色する酵素セルラーゼ。ストーンウォッシュに比べて生地が傷まない。 今でも多くの科学者が、おもしろい酵素探しに精を出している。極限環境で育つ生物を探し、酵素を探す。北極、南極、高地、深海、火口、温泉…。 そして、火星である。火星に生物が存在するとして、その生物が持つ酵素にはどんな活性があるのだろう。 前述の3例同様、生活に根ざしたおもしろい応用を期待するのである。
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