621.国民病(2013.5.27掲載)
見渡せば、職場の同僚の半数が花粉症を患っている。 特に今年は花粉飛散量が昨年の3倍。耳鼻咽喉科を訪れる患者の8割が花粉症で、医療費などの経済的損出は1兆円にもなるという。 東京都健康安全研究センターの調査によると、1983年に8%だった花粉症患者の有病率が2006年には28%まで上昇。そして、この上昇曲線と見事に相関するのがスギ・ヒノキの花粉数。 生活環境がきれいになりすぎた、寄生虫が消滅した等の遠因も無視はできないが、有病率が花粉数に比例しているとなると、花粉症は「天災」ではなく「人災」という色が濃くなってくる。 戦後、木材需要に応える国策としてスギの植林が行われ、広葉樹に比べ成長が4倍も速いスギへの転換が奨励された。結果、スギ人工林の面積は450万ヘクタール。国土面積の12%が人の手によって花粉生産工場に変えられてしまったのだ。 花粉症が人災だとすると、その健康被害は公害ということになる。環境基本法が定める公害の定義は、「事業活動その他の人の活動に伴って生ずる健康被害」ということであり、林業も事業活動に違いない。 まあ、国家相手にボヤいても詮無きことであり、ここは単純にスギの伐採を推進するしかない。花粉の飛散量が最も多くなる樹齢30年以上を積極的に伐採し、苗木を植林する。二酸化炭素の吸収量は若木の方が多いから、温暖化対策にもなる。 伐採後の用途であるが、住宅建材は当然として、意外なところでかつお節づくりに応用できないかと思案中である。 以前、環境保護団体からかつお節製造における焙乾(煙でいぶすこと)用の薪について詰問されたことがあった。「出来上がりのかつお節と同量の薪を使用するというが、伐採した分植林をしているのか」と。かつお節の全国生産量は約3万トンで薪の使用量も3万トンだが、当然植林などしてはいない。 そこでスギの出番。残念ながら現在の技術では広葉樹しか使用できないが、なんとかスギでかつお節をいぶすことができれば、花粉症対策のお役に立ち、環境保護団体の顔も立てることができる。 そんなことを考えながら、自身がいつ花粉症になるのか戦々恐々の日々なのである。
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