622.フンコロガシ(2013.6.03掲載)
いまでこそ、書物とのふれあいは何ものにも代え難い最高の悦楽であるが、幼時、わけもわからず強要された読書は、暗い記憶として未だに心の奥底によどみ続けている。 「ガリバー旅行記」「宝島」「エジソン」「野口英世」「星の王子様」等々。とにかく無理むり。そんな中で、「ファーブル昆虫記」だけはおもしろく読み進んだ。 なにせいきなりフンコロガシである。逆立ちして後ろ脚でフンを転がすことを日々の営みとする昆虫がいて、そのディテールを記録する先生がいる。小学坊主にとって、壮大な偉人伝より目線を落とした観察日記の方が感情移入しやすかったに違いない。 そんなフンコロガシが、星を追いかけるロマンチストであることが最近発表された。 スウェーデンのルンド大学の研究者らは、月のない夜でもフンコロガシがまっすぐ進んでいることに気づいた。目隠しをしたフンコロガシは直進できない。ならば、目印は星ということになる。 そこで、フンコロガシをプラネタリウムに連れて行くと見事に直進した。この時の必須条件が天の川。きらめく星空を用意しても、天の川がなければ直進できなかったのだ。 何ともおしゃれではないか。生業で生物を差別してはいけない。動物界で、天の川を道標に使っていることが実証された気高き最初の事例なのだ。 ふと、NHKみんなのうたで、伊武雅刀さんが歌った「フンコロガシは、忙しい」を思い出した(2006年6月)。 「家族の幸せコーロコロ LOVE&PEACEだコーロコロ まだまだいけるぞコーロコロ フンは、小さな地球だよ 丸く収めてしまいましょ」 フンを地球になぞらえるなんて、まるで天の川仮説を予見していたみたいだ。そして、秀逸のサビ。 「何も悩んでは、いけません 転がすことが運命です」 おお、この哲学的達観。おそるべしフンコロガシ、おそるべしみんなの歌。 悩んではいけないのだ。運命に抗わず前進するのみなのだ。 フンコロガシを昆虫記の巻頭に持ってきたファーブル先生の深意に、姿勢を正す今日この頃である。
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