623.HowからWhyへ(2013.6.10掲載)
最近の医学研究のトレンドは、「HowからWhyへ」。 すなわち、どのようにして病気になるのかではなく、なぜ病気になるのかを追究することで新たな治療法を開発するというもの。 5月19日に放送されたNHKスペシャル「病の起源」でも、がんのHowとWhyが解説されていて、「How…細胞分裂の際のコピーミスで異常増殖が起こりがん化、Why…進化の代償」という結論だった。 進化の代償とは、700万年前に共通の祖先からヒトとチンパンジーに分かれて以降、ヒトが進化する過程で得たものと引き換えに、がんのリスクを背負ってしまったという意味である。だから、がんによる死亡率はヒト30%に対してチンパンジー2%。 進化の代償を具体的に紹介する。 700万年前…繁殖戦略として常に精子が増殖する能力を獲得した代わりに、がん細胞も増殖するようになった。180万年前…脳細胞が増殖して脳が巨大化し知能を獲得した代わりに、がん細胞も増殖するようになった。6万年前…人類がアフリカを出て北半球で生活するようになった代わりに、紫外線量の少なさゆえのビタミンD欠乏でがんリスクが増大した。 じゃあどうすればいいか。進化で獲得した優秀な脳で治療法を研究するべしということで、180年前の進化に着目。 脳細胞の増殖とがん細胞の増殖に共通に関与した物質が脂肪酸合成酵素「FAS」であり、FASの働きを阻害すれば、がん細胞が死滅することがわかってきた。副作用のない新たな治療法が登場しそうである。 HowからWhyへ。食品の研究でもこの考え方を取り入れてみよう。 どのようにして美味しいだしを取るのか…1リットルのお湯にかつお節を30グラム入れて弱火で5分。なぜ美味しいだしをとるのか…だしが効いていると薄味でも味がぼけず減塩でも美味しいメニューができるから。 どのようにしてグルタミン酸の旨味を感知するのか…舌の受容体で検知して脳に信号を送る。なぜグルタミン酸の旨味を感知するの…タンパク質の存在を示唆することで必須栄養素を確保できるから。 なんだか道が開けてきた。あらゆるビジネスシーンで「HowからWhyへ」という思考を取り入れてはどうかと思った次第である。
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