629.はきもの屋長兵衛(2013.7.22掲載)
ミズノが「わらじ」をヒントに開発したウォーキングサンダル「ウェーブリバイブ」。発売以来3万足を売り上げるヒット商品に育った「現代版わらじ」であるが、これを履いて甲州街道を徒歩で踏破しようとする知人がいる。 彼の名は長谷部というのだが、ご先祖様を辿ると高井戸の「長兵衛」というはきもの屋に行き着くらしい。 高井戸は甲州街道を出発して最初の宿場町。日本橋から4里のところにあり、わらじを新調するのにちょうどいい距離だった。よって、はきもの屋長兵衛は繁盛した。 ただ、最初の宿場が4里先というのは旅人にとって少々きつく、東海道の品川宿も中山道の板橋宿も日光街道の千住宿も、すべて日本橋から2里のところにある。だから、高井戸宿が整備されてから約100年後の1698年、今の新宿1丁目から3丁目あたりに内藤新宿ができた(新しい宿場だから新宿)。 出発してまだ2里とはいえ内藤新宿でわらじを交換する旅人も多く、高井戸宿長兵衛の売上は激減したのだった。長谷部君は、ご先祖様の恨みを鎮める巡礼の旅に出るというのか。 本人は「ウェーブリバイブの機能性を検証するだけ」と言っていたが、そんな動機で下諏訪宿までの53里は無理だろう。 たしかに、ウェーブリバイブのフィット感は凄い。わらじ研究の第一人者である東京大学深代教授と、ミズノ開発スタッフの4年にわたる共同研究の成果物だけに科学的根拠も十分。 昔のわらじのどこが機能的かというと、鼻緒がソールの最先端部分から出ており、履くと足先がソールの前にはみ出す感じになること。これにより、キック時に足指が下がり、膝が自然に前に押し出される感じで負担が軽減されるというのだ。 とはいえ、あんな薄っぺらな履物で1日に8里前後も歩いたのだから、江戸人の健脚はほんとうに凄い。 クルマ移動でドアtoドアの田舎暮らし。これじゃいかん。 とりあえずウェーブリバイブを購入し、職場までの4里を電車通勤してみようと思うのである。
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