635.音の記憶(2013.9.09掲載)
4年に1度開催される母校(高校)の同窓会で、BGMとして必ず流す自作CDがある。 それは、在校した1979年4月から1982年3月までの3年間でヒットした邦楽を34曲集めた2枚組みCD。サザンが登場し、百恵ちゃんから聖子ちゃんに世代交代し、RCサクセションが売れ始め、YMOに衝撃を受け、さわやかな長渕に共感した頃の珠玉のベストアルバムなのだ。 作った当初の感動は凄かった。人は人生のなかで10代と20代の出来事を最もよく思い出すという定説通り、「赤いスイートピー」は瞬時に放課後の教室にタイムトリップさせてくれた。押し寄せる記憶は青く切なく、ちょっとだけ恥ずかしかった。 ところが、何回もCDを聴くうちにトリップの感度が鈍くなった。あせって聴くとさらに記憶は遠のき、次第に今の風景に置き換わり始めた。平成の聖子ちゃんになってしまった。 これはまずいということで、CDは封印した。 よく、男性の記憶は「別名保存」で女性の記憶は「上書き保存」といわれ、男性が過去を引きずる真因は記憶形式にあるとされているが、音の記憶は完全に上書きモードだった。 そこで、次に匂いの記憶を活用することにした。ただし、匂いは視覚や聴覚より昔の記憶を呼び戻し、そのピークは6歳から10歳の出来事らしい。 まず、部活でしごかれた河川敷の草むらに潜ってみた。たしかに、ひさびさに浴びる草いきれが用意してくれたシーンは部活ではなく、幼時の昆虫採集だった。その後、学校帰りに頬張った肉まんやコーラバーを食べてみたが、よみがえる記憶は特になかった。 まあ、これ以上30年前に閉じた箱にこだわる必要はない。 それより、30年後の記憶のために視覚、聴覚、嗅覚を全開にして、あらゆる物事に挑戦しようと決意する今日この頃である。
|
column menu
|