645.勘違い(2013.11.18掲載)
時々、地元の大学からキャリア教育を依頼され、調子に乗ってホイホイ引き受けてしまう。就活を控えた3回生や卒業間近の4回生に、社会人心得とかビジネス道の基本を説くのである。 例えば、「学業は1人で合格点、仕事はチームで120点」。とりあえず留年さえ回避すれば良かった学業とは違い、仕事は100点取って当たり前。評価されるためには120点が必要だが、1人で悩む必要はない。スペシャリストを集めてチームで目標達成すればいいのだ。 チームが出来ればリーダーが必要だが、「職場では意志決定する人が主役」。頑張る人、努力する人、結果を出す人は当たり前。リーダーになるには意志決定力が必要なのだ。サッカー日本代表の中田英寿選手や本田圭祐選手のように、生意気でも意志決定することで主役になれる。 ただ、120点で主役を目指す俊英にも壁はある。その時、「問題は解決、悩みは解消」。壁が「問題」ならなんとかなるが、「悩み」の場合に出口はない。解決をもがくより趣味やアルコールの力を借りて「消す」しかないのである。 こんな感じで1人悦に入って講義をするのだが、これが大きな勘違い。30年の世代差がある学生たちに泥水を飲みながら会得した社会の垢を処方しても、その深意はほとんど伝わらないのだ。 この勘違いを劇作家の平田オリザ先生が鋭く指摘していた。大阪市で民間出身校長の不祥事が続いたことに関する新聞紙上での対談記事である。 「お堅くない、これまでと違う…そういうものを求められていると勘違いして学校に入ってはいけない」「普通なら教育現場に入ることは将来にわたって責任を負うことで、相当に身構える」 ああ、私もお堅くない講義で学生の気を惹こうとしていたし、将来にわたる責任なんて微塵も考えていなかった。 さらにオリザ先生の叱責にへこむ。 「大学のキャリア教育でも民間企業の人がよく担当するのですが、残念ながら成功しないことが多い。社会に出たらこうだ、という体験を話されてもこれからの時代に役に立つかどうかわからない。そもそも学問として成立していない」 たしかに、お説教ではあっても学問ではありませんでした。 深く反省し、アルコールの力で壁を消した初冬の夜なのである。
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