655.アリの渋滞(2014.2.03掲載)
感性研究の大御所である黒川伊保子先生が、「人間の感性は28年で真逆になり、56年で元に戻る」とおっしゃっていた。 たしかに、今のファッションはバブル前夜の1986年より高度経済成長期の1958年に近く、最新モデルのクルマは56年前と同じで丸っこい。 そう、28年前のクルマは角張っていた。 当時、東京在住だった私は、四角い看板車に乗って四角いグロリアやクレスタに囲まれる渋滞を日常としていた。 上京したてのカントリーボーイは「迷ったら首都高」という先輩の教えを愚直に守り、渋滞の首都高速にたびたび飛び込んでいた。「1号上野、2号目黒、3号渋谷、4号新宿、5号池袋、6号向島」。丸暗記した路線名が命綱だった。 満員電車と人ごみと渋滞は何年たっても慣れることはないが、これらをひと括りにして科学的に解決しようとする先生がいる。「渋滞学」を提唱する東京大学の西成活裕教授である。 これまで、「前を走るクルマが何らかの原因で遅くなるから渋滞する」と考えられていたが、実際は「渋滞は前のクルマとの車間距離が狭くなることで起こる不安定現象」であることがわかった。 つまり、前のクルマが減速した時、十分な車間距離を取っていないと慌ててブレーキを踏み前のクルマ以上に減速してしまう。この現象が連鎖的に起こることで自然渋滞が発生するというのだ。 理想の車間距離は70キロ走行で40メートル。混雑してきた時に、車間距離というクッションで渋滞を回避する「科学的ゆとり」作戦で、交通渋滞による経済的損出12兆円を削減しようではないか。 西成教授はさらに対象を広げ、災害時の非常口に避難者が殺到する人の渋滞、携帯電話がつながらない通信の渋滞、生産現場でモノを作りすぎる在庫の渋滞、会議で何も決められない意志決定の渋滞などを解決しようとしている。 ポイントはどれも「科学的ゆとり」。 このことを本能的に実施しているのがアリの行列である。アリはどんなに混んできても前との距離をあけて絶対に詰めない。だから渋滞しない。 われわれ働きアリも、十分な車間距離をとって仕事をするべきなのである。
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