657.プラセボ(2014.2.17掲載)
プラセボとは新薬の臨床試験などで使用される「偽薬」のことで、有効成分が入っていない砂糖やデンプンのかたまり。 治験者は新薬か偽薬かわからない状態で薬を投与され、症状を観察されるのだが、新薬の効き目は「新薬効果−偽薬効果」で表現しなければならない。つまり、偽薬にも結構な比率で「効き目」があるのだ。 例えば、うつ病の治療で抗うつ剤による治療効果の80%以上をプラセボ効果で実現できるという報告や、いかなる治療群も35%が偽薬に反応するという報告がある。 プラセボ効果の歴史は古く、18世紀までさかのぼる。ドイツ人医師メスメルは「動物磁気」という概念を主張し、磁気を帯びた器具を用いて患者体内の磁気の流れを変えるべくひどい痙攣を起こさせ、症状を劇的に改善させた。 これに疑問を抱いたフランクリンとラボアジエは、1784年に「磁気を帯びた木」をてんかん患者に抱いてもらったところ、同じように痙攣を起こした。全く磁気など帯びていない「木」であるにもかかわらず。 この話を聞いて、量販店の空きスペースなどでよく見かける電位治療器の体験会を想像してしまった。保健所の指導をかわすため数ヶ月単位で場所を変えながら、巧妙なトークで高額な治療器を販売する。科学的根拠はよくわからないが、体験して効果を実感して購入するのだから、プラセボ効果をビジネスに応用した事例といえなくもない。 電位治療器は極端な例だが、医療の現場でも新たな治療法として偽薬を使用できないか検討が始まっている。ただ、患者を欺き、本物の薬を投与されていると思い込ませることは倫理的にまずい。 そこで、患者を欺かないですむ方法の一つとして着目したのが、医師の思いやり。過敏性腸症候群の患者を対象にした研究では、医師が患者に示す配慮や気遣いが大きいほど、患者は症状が和らいだと回答した。医師の態度もプラセボになるということだ。 こうなると食品業界も黙っちゃいない。思いやりと気配りと洗脳で「めちゃくちゃおいしい」と思い込ませる、「プラセボ販促」を考えるのだ。 もちろん、「偽食」が御法度であることは言うまでもないが。
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