659.レ点(2014.3.3掲載)
簡潔なビジネス文章の要諦は、少ない言葉で多くの情報を伝えることだと考える。 そこで役立つのが漢文の素養。趣や風流には欠けるが、大和言葉に比べて少ない語数ですむ漢文をベースにすると、無駄をそぎ落としたシンプルな文章に到達する。 極端な例で言えば、有名な「偶成」の一節「少年易老学難成 一寸光陰不可軽(しょうねんおいやすくがくなりがたし いっすんのこういんかろんずべからず)」。たった14文字で、「若者はあっという間に年をとり学ぶべきことを学ばずに終わる。時間を無駄にしてはいけない」という42文字の内容を伝えられる。 あぁ、学生時代にもっと漢文を勉強しておけばよかった。レ点と返り点を見ただけでクラクラしてしまい、漢文の良さに全く気づかなかった。まさに、学成りがたし。 いま、そんな毛嫌いしていたレ点が「半強制のレ点ビジネス」というブラックなネタで脚光を浴びている。携帯電話会社がユーザーに「1ヶ月間無料」の不要なオプションを付け、1ヶ月後の解約忘れを狙うせこいビジネスだ。あえて解約方法をわかりづらくしているから、多くのユーザーが解約を忘れてオプション料金を払い続ける。 店員が申し込み用紙にカタカナの「レ」に似たチェックをするため、「レ点ビジネス」と呼ばれるようになったのだが、オブション1つにつき1000円程度の販売奨励金が入るわけで、レ点はショップの生命線ということになる。 このような不健全商法に手を染めた理由は、やはりショップの採算性悪化。今や携帯電話市場は成熟期に差し掛かり、出荷台数は激減。その上スマホになって接客時間が膨れあがり、販売効率が悪化しているのだ。 隣家の黒電話を拝借していた昭和世代にとって、電話を販売する店に人があふれるという状況は今もって理解不能だが、それならそれで正しく扱おう。「契約易忘金難成(けいやくわすれやすくかねなりがたし)」。 文章も携帯もレ点には要注意なのである。
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