661.卵のかわり(2014.3.17掲載)
アップル社やマイクロソフト社など、米国経済の発展を支える自由な社風はIT産業だからこそ花開くもので、地味な食品業界には不向きだと思っていた。 ところが、そのマイクロソフト社のビル・ゲイツ氏らが出資するベンチャー系食品メーカーのハンプトン・クリーク・フーズ社(2011年設立)が、実に米国らしい自由な発想によるおもしろい加工食品を開発している。 それは、「鶏卵が調理において担っているすべての機能を体系的に特定し、それらを植物性タンパク質で再現する」という食品。つまり、味や栄養面はもちろん、乳化、凝固、泡立てなど調理で求められる鶏卵の価値を大豆などの植物で代用するというのだ。 すでに、鶏卵を使用しないマヨネーズ「ジャストマヨ」、クッキー作りで鶏卵の代わりに使える「ビヨンドエッグ」が発売中で、高い評価を得ている。 さらに、これまで市場に出回っていた他社の鶏卵代用品は、ほとんどがアレルギー対策を主目的としていたが、ハンプトン社は環境保護面での貢献も強調している。 全世界で雌鶏が産む卵は年間に1兆個を超えるが、その効率は非常に悪く、鶏卵の生産で1キロカロリーのタンパク質を得るには39キロカロリーのエネルギーが必要で、牛肉と同じくらい環境に負荷をかけている。これに対し、植物の場合だと投入エネルギーはたった2.2キロカロリー。 なるほど、鶏卵や牛肉生産の陰にはかなりの無駄があるんだな。人類が直ちに肉食をやめると世界中の食糧危機が解決するというが、鶏卵も肉食サイドにある食品なのかもしれない。 今後、ハンプトン社が挑む難問は、鶏卵を使用することで得られるケーキのふわふわ感を植物素材で再現すること。一般的なケーキの生地は、砂糖と脂肪によって閉じこめられた気泡を卵黄のタンパク質が取り囲み、加熱によってこの気泡が固定されてふわふわになる。 鶏卵大好きで世界第2位の消費を誇る日本だけに味にはうるさいぞ。ハンプトン社の技術が鶏卵を超えられるのか、厳しく見守りたいと思うのである。
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