664.新しいワクチン(2014.4.07掲載)
毎年11月にインフルエンザの予防接種を受けているが、ここ数年は鍼灸師の資格を有するご近所ドクターの「ツボ注射」で痛み知らずである。 深呼吸に合わせて肘関節あたりの無痛点に針を刺すスゴ技で、目を閉じて「吸って〜、吐いて〜」とやっていると、注射針が刺さったことが全くわからない。注射をいやがる歳でもないが、痛みがないのはありがたい。 痛みがないという点では、現在研究が進んでいる「経鼻ワクチン」の登場が待ち遠しい。米国では2003年に承認されているが、弱毒化した生ワクチンが増殖能力を取り戻すリスクがあり、対象が2〜49歳の健康な人のみというからちょっと怖い。 そこで、日本でこの分野の先頭を走っている国立感染症研究所の長谷川博士に期待しよう。「毎年のべ5000万人がインフルエンザワクチンを受けているが、インフルエンザは毎年流行する。それが現実です」と嘆く博士は次世代の経鼻ワクチン開発に燃えている。 長谷川博士の経鼻ワクチンは、スプレーで鼻の中に死滅させたウイルスを噴霧する。その結果、自然感染と全く同じメカニズムで免疫反応が起きて鼻や喉、腸などの粘膜に「IgA抗体」が分泌される。だから本物のウイルスをブロックできるという仕組みだ。 ちなみに、現在の注射するワクチンは粘膜を介さず直接体内に入るため、血液中には「IgG抗体」ができるが、感染の入口となる粘膜は防御できない。注射ワクチンは重症化を回避するだけで、感染予防の効果はないということだ(経鼻ワクチンはIgG抗体も作る)。 長谷川ワクチンはすでに臨床検査を開始している。日本発のワクチンはこれまでほとんど前例がなかったため、期待も大きいのだ。 昨年の11月。ご近所ドクターで恒例の予防接種を受けていると、80歳前後のおじいちゃんが受付嬢を困らせていた。 「スプレーする予防接種あるじゃろが。注射はいやじゃけん」 80歳になっても注射はいやなんだな。けど、まだ臨床段階の経鼻ワクチンのことを知っているとは、恐るべしご近所おじいちゃんがいたものである。
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