666.バナナ世代(2014.4.21掲載)
東京のお土産ランキングで常に上位に鎮座する商品に、東京ばな奈「見ぃつけたっ」がある。特別おいしいというわけでもなく東京との由縁もよくわからないが、1991年の発売以来バナナ世代の涙腺を刺激し続けて現在売上40億円。まさにマーケティングの勝利である。 とにかく日本人はバナナに弱い。病床でしかバナナを食べさせてもらえなかった人。遠足の時、バナナはおやつかどうか迷った人。バナナの叩き売りに吸い寄せられた人…。さっちゃんだけじゃない、みんなバナナが好きなんだ。 ところで、バナナは大学の農学部における育種学講義ネタとしても絶大なる人気を誇る。それは、何もしなくても種なしだから。 ふつう、植物が子孫を残すために生殖細胞を作る場合、減数分裂を起こし染色体の数が2組から1組になる。この生殖細胞が別の個体の生殖細胞と合体して染色体の数が元に戻る。両親の性質を受け継いだ新しい個体の誕生で、これを2倍体と呼ぶ。 ところが、まれに染色体が2組のまま合体し、合計4組できてしまい4倍体となる場合がある。そして、4倍体が減数分裂した生殖細胞と2倍体が減数分裂した生殖細胞が出会うと、2+1で3倍体ができる。3倍体は染色体のセット数が奇数だから正常な減数分裂が起こらない。よって生殖細胞ができず、種もない。ふだん食べているバナナは、この3倍体ということになる。 つまり、バナナは自然交配の末に偶然3倍体となった種なしのお手本なのだ。ちなみに、種なしスイカは人工的に3倍体をつくる。 そんな、教科書的3倍体のバナナであるが、種がないことが欠点にもなる。種がないバナナを殖やすには株分けしかないから、世界中のバナナは遺伝的に全く同じになってしまう。遺伝子の多様性がないということは病気に弱く、ある日突然地球上から全てのバナナがなくなることも十分考えられるのだ。 もし絶滅したら、バナナ世代の底力でまた3倍体バナナを探そうではないか。 3倍体バナナ「見ぃつけたっ」。
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