667.元祖健康オタク(2014.4.28掲載)
高校2年の夏、自身の失態で10日間ほど自宅待機となり、時間をもてあまして筋トレに励んだことがあった。 なぜかそれ以来、腕立て伏せと腹筋がやめられなくなり、30年以上経った今でも毎日の日課となっている。 そして、昔日の自宅待機を沙汰した高校の恩師を久方ぶりに訪ねると、「どれが効いているのかわからないから、毎日飲む10種類のサプリメントがやめられない」とぼやいていた。 お互い笑えない健康談議に花が咲いた。 ちなみに、元祖健康オタクは徳川家康だといわれている。 家康は「命は食にあり」という考えから粗食を率先し、生涯麦飯と豆味噌を食べ続けた。また、季節はずれの食材や冷たいものは食べないというほど食の養生にこだわり、生きることに執着したのだ。 ところで、初夢の縁起物「一富士、二鷹、三茄子」は、家康が好む駿河の名物を並べたものだという説がある。 江戸城から駿府に隠居を決めた際、「なぜ駿府に?」という側室の問いに対してこの三つを挙げたというのだ。 一の富士は、まごうことなき日本一の富士山。二の鷹は家康が終生の趣味とした鷹狩で、農民たちの暮らしぶりを視察しつつ、野を駆けまわることで気分転換を図りながら足腰の鍛錬ができた。 そして三の茄子。初物を食べると寿命が75日延びるということわざを実践すべく、家康は旬の茄子を好んだのだ。おそらく、豆味噌をつけて焼いて食べたにちがいない。 「茄子の日」に制定されている4月17日が、1616年に75歳で他界した家康の命日であることは偶然にしてはすごすぎる。 歴史学者の磯田道史先生によると、信長、秀吉、家康それぞれの人生の主題を一語で要約するなら、信長は「死」、秀吉は「夢」、そして家康は「生」ということになるのだとか。 なるほど「命は食にあり」という言葉に思いを込めた家康は、誰よりも生き延びることにこだわった武将だったのだ。 一富士、二鷹、三茄子は「夢」ではなく、「生」の縁起物だったのである。
|
column menu
|