670.都会暮らし(2014.5.19掲載)
横浜国立大学の研究チームが、「都会で暮らせる人、暮らせない人」というおもしろい研究成果を日本生態学会で発表した。 具体的には野生動物が対象で、多摩丘陵と房総半島の都市化エリアにセンサーカメラを設置し、タヌキやアライグマ等のどのような特性が都市環境に適応しているのかを調査する内容である。 結論は、「雑食性で体のサイズは小さいが繁殖力が強く、樹上で生活できる」ことが都会暮らしの哺乳類に必要な条件だった。 ふと、イソップ寓話「田舎のネズミと町のネズミ」を思い出した。町でごちそうを食べようとすると人間がやってきて、狭い穴から一目散に逃げるシーンがある。「いくらすばらしいごちそうがあっても、こんなに危険な場所では暮らせません」と帰り支度をする田舎ネズミのセリフがメタファーとなって、本当の幸せとは何かを読者に問いかける冒険譚だった。 一方、鹿児島大学農学部の研究チームは街路樹のポプラを使って同様の研究を行った。 遺伝的に同一のクローンポプラを田舎と都会に植樹し3年間の成長を調べたところ、都会のポプラの方が2倍も成長が早かった。都会では多量の窒素酸化物がオゾンと反応し、田舎よりオゾン濃度が低くなっていることが要因らしい。有害な窒素酸化物のおかげでこれまた有害なオゾンが減り、結果、ポプラがよく育ったのだ。毒をもって毒を制す。どうりで皇居や御苑の緑が深いはずだ。 都会のサラリーマンはどうかな。 横浜国大の研究よろしくホームの混雑を軽快にすり抜け、駅前の居酒屋で何でも食べて高層マンションの寝床に戻る。そして、鹿児島大の研究成果を取り入れるなら、過酷な満員電車通勤や交通渋滞も適度な「毒」となって都会のサラリーマンをたくましくする。 快適すぎる気候や快適すぎる環境はかえって体を老化させるわけで、一見不健康に見える都会のサラリーマンの方が存外長命ではないか。 近い将来、過酷な都市部で生き抜く最強種として、都会のサラリーマンが学会発表される日が来るかもしれないのである。
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