686.記憶の書き換え(2014.9.15掲載)
自身の老化を実感する瞬間として、記憶力の低下がある。クルマの鍵をどこに置いたかわからない、タレントの名前が思い出せない、パスワードに心当たりがない…等々。 記憶の本質は「覚えること」とそれを「思い出すこと」にあるが、その両方が老化とともに衰える。覚えられないし思い出せない。薬を飲んだかどうか確認するため、釣り針保管ケースの7つの小部屋に1週間分の薬を曜日別に収納していた父を笑えない状態になってしまった。 ところが、こんなに衰えた脳のくせに、嫌な出来事の記憶だけはふとしたきっかけで鮮明に蘇ってしまう。 運動会のリレーで2人に抜かれて号泣した小学校のグラウンド、コックリさんをしただけで担任に20発殴られた中学校の職員室、「芋虫のお遊戯」と監督から酷評された高校サッカー部の部室。あの場所には行きたくない。 どれだけ新しい情報が入ってきても消えない40年前の記憶。たぶん、この先いくら年をとっても消去できない脳内の奥深い場所に保存されているに違いない。ならば呼び出して書き換えるしかない。 理化学研究所がマウス実験に成功した、「嫌な出来事の記憶」を「楽しい出来事の記憶」に置き換える手法を取り入れたらどうだろう。 まず、雄のマウスに電気ショックを与え、脳内に嫌な記憶を作る。この記憶が定着している脳細胞に青い光を当てると、マウスは嫌な体験を思い出してすくんでしまう。 ところが、青い光を当てたまま雌のマウスを同じケージに入れて1時間ほど遊ばせると、雌と遊んだ楽しい体験が同じ脳細胞で作られ、嫌な記憶と置き換わるというのだ。 おお、何とも楽しい実験ではないか。青い光はちょっと怖いが、小学校のグラウンドに行って女子と楽しく遊べば、あのトラウマから解放されるというのか。 嫌な捏造事件を書き換えたい理研の研究成果だけに、実験の信憑性はかなり高いと思うのである。
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