688.続・記憶の書き換え(2014.9.29掲載)
8月24日に松山市で開催された第17回俳句甲子園全国大会の決勝は、開成高校(東京)対洛南高校(京都)という昨年と同じ顔合わせだった。 各校5名編成で、先鋒から順に5句をぶつけ合い3本先取りで勝敗を競うのだが、王者開成さすがの貫録で先鋒戦、次鋒戦とも制して王手。そして、後がない洛南は渾身の句を中堅戦にぶつけてきた。 決勝戦のお題は「生」。 「さっきまで生きていたから生トマト」洛南高校 「踏切に立往生の神輿かな」開成高校 はたして採点は8対5で開成が勝利し2連覇。う〜ん、日本の頭脳は俳句まで制してしまうのか。 審査員を務めた高名な俳人によると、「洛南の句もよくできているがこれは俳句というよりキャッチコピーだ。カゴメプレミアムトマトジュースのCMにぴったり。あすの朝刊の広告で出てきそう」だって。 なるほど、泣くな洛南。クリエイターとしての能力は勝っていたということじゃないか。コピーライターで名をはせて見返してやれ。 そして、夏休み明けの9月1日。洛南高校俳句部に、「祝俳句甲子園準優勝」との祝辞とともにカゴメからプレミアムトマトジュースが2ケース届いた。 やるなカゴメ。社名を連呼した俳人ではなく、未来ある高校生に情けを届けたことがすばらしい。ほろ苦い夏の記憶がトマトの酸味とともに流され、カゴメの粋な計らいに置き換わる。 これこそが、最近理化学研究所がマウスで実証した「記憶の書き換え」の実践である。動物実験なんかに頼らずとも、多感な10代がそれを証明してくれるはず。嫌な記憶は早期治療で楽しい記憶に置き換わるのだ。 ああ、30年前のグラウンド。「芋虫のお遊戯」と酷評されたゴールキーパー少年に芋虫を飼って蝶に育てる了見があれば、トラウマを引きずらずに済んだのかもしれない。 詮無い思いを胸に秘め、2話にわたる記憶ネタの手仕舞いとさせていただきます。
|
column menu
|