699.青春の蹉跌(2014.12.15掲載)
ある小説家が、「どんな人間でも、若い頃の思い出を文章にすれば最高に面白い青春小説が1冊は書ける」と語っていた。 学園生活のやんちゃ話、部活の根性ネタ、大人の世界に足を突っ込んだ日々、家族のとんでもない歴史等々。そりゃ十人十色のヒストリーに裏付けされた実録物語なのだから、面白くないわけがない。 そんな世間の常識も知らず、いい気になって青春を切り売りして出版なんかした20年前の自分が恥ずかしい。まあ、済んだことは仕方ないが、10冊書けるのがプロなんだな。 多くの人がそれぞれの青春を胸にしまって生きている。それが普通である。だから、クリエーターはその思いと共鳴する商品や企画を世に送り出す。映画、小説、芝居、フォークソング…。 むかし、飲料で青春に挑戦した勇者がいた。 2003年4月、サントリーは「青春チューハイ」という名の缶チューハイを発売したのだ。レモンとグレープフルーツの2アイテム。2001年発売のキリン缶チューハイ「氷結」が好評だっただけに、逆転を期しての挑戦だったが結果は惨敗。 ネーミングの解説文が残っている。「青春という言葉には『甘酸っぱい』『はじける』『爽やか』というイメージがあり、缶チューハイの炭酸の爽快感や果実のおいしさに通じる響きがあります。一生懸命働いた後や休日に出掛けた夜に、楽しくて、心地よい気持ちになっていただける缶チューハイを目指して『青春チューハイ』と命名しました」。 その通りだ。甘酸っぱくて、はじけて、爽やかな青春時代。部活帰りの校舎の陰に、レモンスライスの砂糖漬けを手にした女子が一人たたずむ。妄想のレモン味がなぜ売れないんだ。 先行したサントリー「氷結」は、懐かしのキリンレモンの味をレシピに潜ませ郷愁を誘ったという。やはり「青春」は秘めたるものなのか。ストレートな訴求は逆効果なのか。 今度、サントリーの開発担当者を訪ね、青春の蹉跌について語り合いたいと思うのである。
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