702.塩ハン(2015.1.12掲載)
昨年、東京国立博物館にて開催の「日本国宝展」で、志賀島で発見された金印を見てきた。誰もが一度は教科書で見たことがある「漢委奴国王」と刻まれたあのハンコである。 実物は教科書の印象より小さく2センチ角くらい。ただ、その金色の輝きが尋常じゃなく、ものすごいオーラを放っていた。第一発見者である志賀島の農民も腰を抜かしたに違いない。 ハンコ文化の日本ならではの国宝が今回の目玉展示であり、作られた弥生時代と発見された江戸時代に思いを馳せながら、ありがたく後光を浴びてきた。過去を学ぶことは未来をつくる第一歩だから。 一方、過去の栄光を否定して未来につなげたのが現代のハンコである「シヤチハタ印」。 シヤチハタ株式会社はもともと朱肉とスタンプ台のメーカーであり、1925年に発売したインク補充の必要がない「万年スタンプ台」を主力に発展を遂げてきた。 そして、1965年にスタンプ台不要の浸透印「Xスタンパー」を発売して大躍進。スタンプ台の存在を否定する商品にあえて挑戦することで未来を拓き、現在のシェア80%。シェアが高すぎて「シヤチハタ」という社名で商品が扱われているが、実際の商品名は今でも「Xスタンパー」なのである。 このシヤチハタ印、多孔質の合成ゴムの印面までインクを浸透させて押印する仕組みであるが、ゴムを多孔質にするために塩を使っている。ゴム原料に塩の微細結晶を混ぜ込んで合成したのち、そのゴムを水洗することで塩の結晶が水に溶け、多孔質のゴムができあがる仕組みだ。 かつて給料のかわりに塩が支払われていたことから、「salt」→「salary」となったらしいが、給料の受け取りで押したシヤチハタ印の製造に塩が使われていたというのもロマンある話ではないか。 世は「塩パン」ブームだが、「塩ハン」も忘れないでほしいのである。
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