712.ショートプレート(2015.3.23掲載)
球春到来であるが野球の話ではない。「ショートプレート」は「ともばら」にあたる米国産牛肉の部位名であり、牛丼でよく使用される脂身。 その吉野家の牛丼が300円から380円に値上がりした際、知人が経営するジンギスカンの店も2割の値上げを敢行した。「便乗値上げだろ」と冷やかしのコメントを浴びせるも、「羊も高い」とだけ呟いてオーナーは厨房に消えた。 どうやら、牛肉が上がると羊肉も上がるらしい。この仕組みを、3月14日放送のNHKスペシャル「世界牛肉争奪戦」で解説していた。 世界で生産される牛肉は年間6000万トンで、その6割を日本が消費していたのだが、内陸部まで経済発展が拡大した爆食中国が10年間で牛肉の輸入を6倍に伸ばした。鶏肉中心の食文化だった中国人が牛肉の美味しさに目覚めたらひとたまりもない。日本は買い負けたのだ。 さらに、これに目を付けたニュージーランドが人口より多いといわれる羊に見切りをつけ、中国への牛肉輸出を拡大した。牛肉は羊肉の5倍儲かるらしいから戻る見込みもなく、羊肉が高騰したのだった。 ささやかに営業を続ける町の個店では、どうにも抗うことのできない食材の大きなうねり。 番組では、大豆にも言及していた。牛肉の国内生産を強化し始めた中国が、飼料用大豆を年間7000万トンも輸入しているというのだ。かつて、大豆の輸入世界一は日本だった。味噌、醤油、豆腐、納豆…。奥ゆかしくて知恵の詰まった伝統食品の素材が家畜に爆食されてしまい、これも無念の買い負け。 そして、牛肉に目を付けたニュージーランド同様、大豆に勝負をかけたブラジル人が、国土の21%を占める広大な草原地帯「セラード」を大豆畑に変え始め、森林破壊による干ばつが問題になっている。 ジンギスカン屋のおやじと味噌メーカーの購買部長が仕入れに悩む2015年の春。元をただせばどちらも中国の肉食が原因だった。 別の意味での「食物連鎖」が社会科の教科書に載る日も近いと思うのである。
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