713.赤い大根(2015.3.30掲載)
花かつおの鮮やかなピンク色は、カツオの筋肉中に存在するミオグロビンが燻製時に発生する一酸化炭素と結合することで形成される。 本来、呼吸のための酸素を保持する役割のミオグロビンが、命をかけて一酸化炭素を選んで咲かせたあだ花。だから、この意気に免じて煙を使用する発色は合法となっている。 一方、人為的に発生させた一酸化炭素をマグロやカツオの刺身に吹きかけて発色させ、鮮度感を偽装するのは御法度。当然の感覚だが、米国ではなぜかこの偽装が合法であり、現地の刺身には注意が必要である。 筋肉で活躍するミオグロビンに対し、血液中で酸素を運ぶのはヘモグロビン。こねたパン生地にグーパンチを浴びせたような凹みを活かしてボディを半分に折りたたみ、毛細血管を行き来することができる。 ほぼすべての脊椎動物の呼吸を支えるヘモグロビンであるが、実は、野菜にもヘモグロビンが存在することは、あまり知られていない。 最近では、スウェーデンのルンド大学の大学院生がテンサイ(砂糖大根)中にヘモグロビンを発見したし、古くは大豆の根についた真っ赤な根粒からヘモグロビンが見つかっている。 野菜におけるヘモグロビンの役割は、一酸化窒素を細胞に届け、成長を調節するシグナルを送ることではないかと推測されているが、ヘモグロビン自体を利用する壮大な研究もある。 カナダのマニトバ大学のヒル博士は、遺伝子組み換えでアルファルファの根粒ヘモグロビン生産量を増やし、人間向けの代用血液になるかもしれないと考えた。また、スタンフォード大学のグループは、植物ヘモグロビンをベジーバーガー(肉抜きハンバーガー)に使い、血のしたたるステーキに近い風味にしようと実験している。 かつて、燻製による発色をヒントにソーセージの発色技術が開発された。そして近い将来、遺伝子組み換えで野菜から血がしたたる日が来るのか。 ところでこのハンバーガー、ベジタリアンは受け容れるのかどうか、ちょっとだけ心配してしまったのである。
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