720.ソムリエ気象予報士(2015.5.18掲載)
以前、都内のフランス料理店で得意先と会食した際、在籍するソムリエに接待を助けてもらったことがある。 その客人は自宅にワインセラーを持つワイン通。生半可じゃない蘊蓄に気絶寸前だった私をソムリエが救ってくれた。 会話を盛り上げながら「3本で4万円」という予算内でヴィンテージをセレクトし、客人の舌を納得させてくれたのだ。客人の言われるままのワインだと10万円を超えていたらしい。 それまでの「ソムリエなんて趣味の延長線上にある道楽的職業で、さほど世の中の役に立っていない」という偏見を猛省し、浅学を恥じた。 この事件がきっかけで交流が始まった件のソムリエから、気象予報士取得に向けて勉強中との連絡があった。気候変動でブドウの成分が変化し、ワインの味に影響が出ていることが動機らしい。 気温が上昇するとブドウの糖分が増し、発酵で生成するアルコール濃度が高まる。アルコール分が高いワインは苦く感じられ「ホット」という評価になる。一方、シャープで爽やかな味をもたらす酸味は熟すにつれて減少するため、温暖化はワインの爽やかさを低下させてしまう。 「気候変われば風味も変わる。名ワインは育てるものにして造るものにあらず」なのだとか。 事実、世界各地のブドウ畑で品種の見直しが始まっている。赤ワイン用のピノ・ノワールを育てるカリフォルニア州カーネロスの畑では、シラーや白ワイン用のソーヴィニヨン・ブランを試験栽培しているらしい。もちろん、木の列の向きや葉の配置を変えて日陰を増やす工夫も抜かりない。 ソムリエ蘊蓄の小ネタ満載だな。 カーネロスやブルゴーニュといった地域の「大気候」、各地のブドウ園という「中気候」、葉という日よけの下にあるブドウの房の「微気候」。ソムリエが気象予報士を取得する意義は十分にある。 とすると放送局のお天気お姉さんがソムリエを取得し、天気予報にワインの蘊蓄を絡める日が来るのかもしれない、と思った次第である。
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