723.30年前のコスプレ(2015.6.8掲載)
1982年秋。19歳になったばかりの私は、親友2人を誘って2本の映画を立て続けに観た。高倉健の「海峡」と萩原健一の「誘拐報道」。 どちらも大ファンの俳優が主演する完成度の高い作品だけに、完全にワールドにはまってしまい、翌日は3人で主演の衣装を完全コピーした「なりきり登校」。たまたまどちらの衣装も黒系のレインコート+長靴+黒サングラスで、キャンパスで浮きまくり。この日を境に友人が減ったことは間違いのない事実である。 誘拐犯萩原健一の衣装を着た私は、その後も萩原健一をトレースし続けたが、青函トンネル現場責任者高倉健の衣装を着た親友2人は、健さんの役柄をリスペクトし、同じ土木の道を歩んだ。 人生を変える映画だったのね。 軟弱な食品業界人にとって、その親友から聞く「土木あるある」はワイルドで衝撃的。 例えば、ダムの建設現場に軍手や自動販売機を不当に押しつける自由業の人たちは、たいてい「名刺置いてけ」の一言で退散する。ところが、たまに自由業の新人さんが本当に名刺を置いていくミスを犯し、数時間後に顔面ボコボコで「名刺返してください」と泣きながらやってくる場合があるそうだ。 そんな時、「お前さんも大変だねぇ」との激励で新人はさらに号泣するが、ダム現場も結構大変なんでちょっともらい泣き。 さらに、ダム現場の食品ネタを聞いてみた。山深い現場事務所で重宝するのはやはりカップ麺と缶詰だが、意外と「削り粉」が大人気。おぉ〜。わが業界と土木に接点あり! カップ麺や即席味噌汁に削り粉をひとつまみ入れることで、故郷のほんわかだし感が再現できるのだ。関東は「かつお粉」、中部は「さば粉」で関西は「にぼし粉」。 むさくるしい男の現場に広がるおふくろの味。30年前の映画仲間が業界を越えて邂逅した不思議な感覚。 あの日のコスプレは、存外無駄ではなかったと思うのである。
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