725.花咲かホルモン(2015.6.22掲載)
さまざまな植物の花を咲かせる機能を持つ、「フロリゲン」と呼ばれるタンパク質がある。 「花咲かホルモン」という二つ名を持つこの物質、基礎研究の分野で日本が最先端を走っている。やはり「花咲か爺さん」の昔話が浸透しているからか、枯れ木に花を咲かせんとする研究員も多いに違いない。 最新の研究成果で分かったことは、通常葉で作られ葉に存在するフロリゲンが、花を咲かせる際に茎の先端に移動するということ。ふだんは葉の気孔の調節に一役買っているフロリゲンが、開花のミッションを背負ったホルモンとして先端まで駆けるのだ。 また、花を咲かせないように働く「アンチフロリゲン」も見つかった。とすると、フロリゲンとアンチフロリゲンを駆使した花卉の出荷調整も可能になる。くれぐれも桜の開花に悪用されぬよう注意が必要だが。 ふと気になって、「花咲か爺さん」を読み返してみた。 心優しい老夫婦が川で拾った小犬に「ここ掘れワンワン」と導かれて金銀を手にするも、妬んだ隣人に小犬を惨殺されてしまう。その後、小犬の墓に植えた木で作った臼から財宝があふれ出し、またも隣人の嫉妬で臼を燃やされてしまう。 この燃えた臼の灰を撒く時の名ゼリフが、「枯れ木に花を咲かせましょう」であり、枯れ木が満開になった様を見た殿様から褒美をもらう。一方の隣人は真似して撒いた灰が殿様の目に入り罰を受けるという結末。 この寓話のメタファーは何なのだろうか。 「ウサギとカメ」は、ゴールすることではなくカメに勝つという間違った目標設定で結果を出しそこなったウサギに学ぶ失敗学。「鶴の恩返し」は、決して扉を開けてはいけない=決して携帯を見てはいけないというルールを破った果てに幸せはないという教訓譚。ならば「花咲か爺さん」は…。 真面目に暮らせばいいことがある、嫉妬ほど恐ろしいものはない、いやいやどちらも面白くない。 小犬→臼→枯れ木と「フロリゲン」が移動して花を咲かせるという最新科学の予言ストーリーと考えてはどうだろう。 昔話の読み聞かせが科学者を育てるという展開も面白いのではないだろうか。
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