730.皮をむいて食べてください(2015.7.27掲載)
ときどき学校給食の現場に赴き、だしやかつお節の話をさせてもらうことがあるが、栄養士の先生方が口を揃えて嘆くのは食物アレルギーの問題。 そばを茹でた釜でうどんを茹でていないか、ピーナッツの粉末がドレッシングに入っていないか、アレルギー要注意児童がおかわりで別メニューを食べていないか等々。 完食必至で「おのこし」が許されなかった昭和の給食では考えられない、異次元の気苦労だな。 昭和45年春。給食3回目にしてクリームシチューに初遭遇した一年坊主は、バタ臭いその液体を前に固まるしかなかった。明治生まれの祖父母と同居していた大家族でクリームシチューが食卓に登場することはなく、もちろんファミレスなどない時代で外食も皆無。 放課後までぽつねんとクリームシチューに対峙させられたトラウマは、心象風景にへばりついたかさぶたのようなものなんだ。 そもそもすべてがキレイになりすぎた。 汚い環境で育つとアレルギー体質になりにくい「衛生仮説」なる学説がある。 例えば、家畜と生活を共にしている、田舎の長屋暮らしで共同トイレは汲み取り式、体内に寄生虫がいる…。う〜ん、やはりキレイがいいか。 ところで、昭和40年代の給食のパンは個包装されておらず、木箱に詰め込んだ1クラス分を給食当番が給食室から教室に運んでいた。 その木箱を担いだ給食当番がたまに渡り廊下でつまずいて、パンを地面にまき散らしてしまうことがあった。ただし、心配御無用。何事もなかったように再びパンを木箱におさめて教室へ。そして必殺のお詫び文句を口にするのだ。 「皮をむいて食べてください」 アレルギーという言葉すら知らないのどかな時代があったということだ。
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