731.自販機天国(2015.8.3掲載)
なぜだかわからないが、時々狂ったようにカラオケで尾崎豊の「15の夜」を熱唱してしまう。 この曲、1983年のリリースだから小生大学2回生。当然、やんちゃ盛りは過ぎているわけで、「家出の計画」とか「盗んだバイク」という歌詞に共感したのではないと思う。 たぶん、2番の歌詞「100円玉で買えるぬくもり熱い缶コーヒー握りしめ」が心に響いたんだな。1989年の消費税導入で110円になってしまったが、コンビニがまだ繁殖してなかった当時、「闇の中ぽつんと光る自動販売機」の存在感はすごかった。 日本人は自動販売機が好きなんだ。 今年の3月6日に放送されたNHKの「ドキュメント72時間」は、秋田港の吹きっさらしに設置されたそば・うどんの自動販売機が舞台だった。お金を入れて25秒で熱々のそばやうどんが出てくるのだが、40年前の設置だけに故障がちで、味が薄くなってしまっている。 それでもそこに人が集まり番組が成立するのだから、闇の中の自販機とそこから出てくるジャンクな味には、元祖ファストフードとして人を引き付ける何かがあるに違いない。 日本は自動販売機大国である。 現在の設置台数503万台は米国645万台の後塵を拝しているが、売上額は4兆9526億円で世界第1位。ただ、ピークは2000年の7兆1122億円というから、当時6兆円規模のコンビニ以上だったことになる。 カーラジオから「15の夜」が頻繁に流れていた1983年の二十歳の朝、福岡に住む親友を訪れた私は、いきなり「ゆうれい坂」なる秘境に連れて行かれた。福岡県遠賀郡岡垣町の山中にあるこの坂は、目の錯覚で登り坂のように見えて実は下っているというふしぎ坂。さっそく缶コーヒーの空き缶を置いてみると、見事に坂を登り始めた。超常現象特番的摩訶不思議体験。 ひとしきり転がした後、引力に逆らった缶をごみ箱に投げ入れた。そこに自販機はないがごみ箱は満杯。 これもまた日本ならではの風景なのである。
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