735.コウモリ言語学(2015.9.7掲載)
商社に勤める知人から聞いたのだが、海外勤務で子供をバイリンガルにするには小学4年生から6年生の3年間の滞在が理想らしい。 これより早いと日本語があやしくなり、遅いと外国語が定着しない。また、中学から日本の学校に行くことで大学受験にも何とか間に合う。 この俗説に科学的根拠があるかどうかは不明だが、人間の言語獲得に関する研究は非常に難しい。 1970年、ロサンゼルス市の児童福祉当局は、生まれて以降ほぼ完全に社会から隔離されて育った「ジーニー」という全く喋れない14歳の少女を保護した。ジーニーは学習によって語彙をすぐに習得したものの文法はうまく獲得できず、言語学習に関する限界年齢を絞るのに役立った。もちろん、こうした事例研究は故意にはできない。 そこで実験動物の出番であるが、テルアビブ大学の研究グループは「エジプトルーセットオオコウモリ」に着目した。親から発声を学ぶこのコウモリは人間の子供と同様、熟達していないうちは「片言」のコウモリ語しかしゃべれないらしい。 まず、5匹のコウモリの子をそれぞれの母親とともに群れから隔離して育て、成体どうしの会話を聞かせないようにした。離乳後、これらの子コウモリを1カ所に集め、スピーカーを通じて成体コウモリのおしゃべりを聞かせた。一方、別のコウモリ5匹は群れの中で育て、生まれた時からコウモリどうしの生会話を聞かせた。 結果、群れ育ちのコウモリは初期の片言が最終的に成体の会話に変わったが、隔離されて育ったコウモリは成長してからも未熟な発声のままだったのだ。 これは、以前米国で行われた中国語会話のビデオ教材を使った幼児教育実験と同じ現象である。ビデオ教材では全く中国語に反応を示さなかった乳幼児が、全く同じ登場人物が全く同じレッスンを生で実施することで、即座に反応した。 やはり生声が必要なんだ。 ところで、哺乳類であるコウモリを実験に使うのは当を得ていると思う。コウモリのコミュニケーションは、自分のステータスを示す鳥の歌よりも人間の言語に近いから。 黄金バットやバットマンなど、コウモリの擬人化にはちゃんとした根拠があったのである。
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