736.狙い撃ち(2015.9.14掲載)
小学4年生の男子からラジオの子供電話相談室に鋭い質問が寄せられた。 「放射能はどうして体に悪いのですか?」 「君がプラモデルに挑戦する時、設計図を見ながら作るだろ。その設計図にコーヒーをこぼしてしまったら、プラモデルは作れなくなるよね。それと同じで、放射能は君の体の中にある設計図を汚してしまうから、体が作れなくなるんだ。怖いだろ」 スタジオで待機する先生が見事に回答した。 体の設計図が書き込まれたDNA二重らせん構造の直径は2nm=50万分の1mm。分子レベルの極微世界をプラモデルで表現する名回答だった。 分子レベルで病巣を攻撃するナノ医療には、この感覚が必要になる。最先端の治療法も、小学4年生にわかる説明ができなければ患者さんの信頼は得られない。 「どうしてがん治療薬は副作用が強いのですか?」 「細胞が、がんになっているか正常かを見分けるのはすごく難しいんだ。がん細胞は増えるスピードが速いから、そこを目印に薬を働かせる。そうすると、正常な細胞だけど増えるスピードが速い髪の毛なんかも間違って攻撃してしまうことになる」 東京大学の片岡博士らは、抗がん剤を赤血球の200分の1という小さなカプセルに閉じ込め、正常細胞を攻撃せず、がん細胞のみを狙い撃ちする治療法を臨床試験中である。 カプセルが酸によって分解するよう設計しておけば血液中の中性環境では作用せず、目的の細胞に到達して初めて腫瘍の酸性度によって分解され、薬剤を放出する。 「どうしてカプセル薬剤は、がん細胞を狙い撃ちできるのですか?」 「もし君が繁華街の雑踏で好きなアイドル歌手を見つけたら、なりふり構わず人混みをかき分けて近づくよね。でもって握手してもらってメロメロになる。新開発のカプセル薬剤も、がん細胞が好きで近づいてメロメロに溶けて、薬剤を放出するんだな」 やさしい説明はほんとうに難しいのである。
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