740.自動式電気釜(2015.10.12掲載)
10月の第1週、国慶節休暇で来日中の爆買い中国人が大挙して秋葉原に押し寄せてきた。 お目当て家電の変遷は、炊飯器→デジカメ→温水便座ときて現在はマイナスイオンドライヤーとスティック型掃除機。2万円以上するドライヤーを躊躇なく買う日本人は少ないと思うが、それを一族郎党の分まで両脇に抱えて持ち帰るのがインバウンド消費のすごいところ。 この物欲を見た日本人が国産家電の素晴らしさを再認識し、炊飯器の国内需要も好調らしい。 日本発の家電製品である炊飯器は、町工場のアイディアを大手メーカーが大量生産につなげた高度経済成長期産業の一典型でもある。 1952年、東京の町工場であった光伸社は東芝から電気炊飯器の開発を受注し、1955年に爆発的ヒット商品となる「自動式電気釜」を完成させた。 光伸社のアイディアは「三重釜間接炊き方式」と呼ばれるもので、外側の空間にコップ1杯の水(20分で蒸発する量)を入れておき、それが蒸発するまで100℃以上の釜温度にならない仕組み。これにより「はじめチョロチョロ中パッパ」の火加減が再現できたのだ。 さらに、熱膨張率の異なる2枚の金属板を使用したバイメタル式の温度感知スイッチを開発し、炊き上がると自動で電源がOFFになる機能を付加したのだ。これは、電子制御部品なんかを必要としない、日本人ならではのシンプルで合理的なアイディア。 今頃になってやっと家庭用の製パン機や製麺機が市場を賑わせているが、そもそもパンも麺も穀物を製粉した「粉」が原料。「粒」から炊き上げるごはんの方が、はるかに難易度が高いに違いない。 かつて、大人1人が1年間に食べる米の量を1石と呼んだ。1石=100升=1000合だから1年間に1000合。つまり、1日に1人で2.7合の米を食べるという計算になる。お茶碗約6杯。そんなに食べてたんだ。 電気炊飯器の発展に逆らうようにして減少してしまった米消費。和食の文化遺産登録もすばらしいが、自動式電気釜に詰まった日本人の叡智も忘れてはならないと思うのである。
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