743.微生物エンジン(2015.11.2掲載)
かつお節には煮たカツオを煙でいぶしただけの「荒節」と、それをかびの力で発酵した「枯節」という2種類のグレードが存在する。 本来、枯節を作る発酵工程でのかびの最大の仕事は水分の消費。かびが生きていくために水を飲むことで20%あった荒節の水分が15%にまで減少し、保存性が向上するのだ。この5%の水分削減は人力ではとても無理。 このような微生物による水分の消費活動を、クルマのエンジンに応用しようという途方もない研究が進んでいる。 コロンビア大学の研究グループは、直径10センチほどの円盤に数十枚の付箋のような紙を張り付け、この紙に動力源として「枯草菌」という微生物をコーティングした(紙の端にはおもりが付いている)。 まず、円盤の半分だけをカバーで覆い、カバー内部を高湿度にする。すると湿気の多いカバー内の枯草菌が水分を吸着し、おもり付きの紙が伸びてカバーのない部分とのバランスが崩れ、円盤が回転する。 円盤が回転することで水分を吸着した紙は外気にさらされ水分を放出し、逆のバランスとなってまた円盤が回る。理論上はカバー内の湿気が無くなるまで円盤は回転するはずであり、この微生物エンジンを載せた100gのクルマは、10分かけて実験台を横断したという(円盤の軸とクルマの前輪がゴムバンドでつながっている)。 すごい発想である。今は100gのボディを動かす力しかないが、発明なんて最初はそんなもんだ。 この微生物エンジン、円盤が回転する構造からして「ロータリーエンジン」と呼べなくもない。かつて、世界中の自動車メーカーが開発を断念する中、日本のマツダだけが実用化に成功したのがロータリーエンジンだった。 くしくも、今週は東京モーターショーウィーク。数十年後のモーターショーで、日本の自動車メーカーが「微生物エンジン」を搭載したエコカーを発表する日が来るかもしれない。 未来という言葉には、そういう期待を抱かせる響きがある。
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