744.木材自給率(2015.11.9掲載)
かつお節を製造する際の重要な工程の一つに「焙乾(ばいかん)」がある。 これは、煮たカツオを煙でいぶす作業で「燻製」と言えなくもないが、一般的な燻製と異なるのは香り付けよりも乾燥を主目的にしていること。 煮た直後のカツオは水分が70%前後であるが、これを10日間かけて20%にまで乾燥させる。よって、強力な火力が必要であり、毎日大量の薪を焚き続けなければならない。 ちなみに、かつお節製造に適した薪は、サクラ、カシ、ナラ、ブナ、クヌギなどの広葉樹。 その薪の量は、出来上がりのかつお節とほぼ同量。つまり、年間2000トンのかつお節を生産する工場は、年間2000トンの薪が必要になる。しかも、伐採後2、3カ月は薪自身を乾燥しなければ使い物にならないため、かつお節工場にとっては薪置き場の確保も悩みの種なのだ。 そんなかつお節工場だから、見学時に最初に目に飛び込んでくるのは山積みされた大量の薪。それを見た環境保護にうるさいスーパーのバイヤーが必ず口にする常套句がこれだ。 「こんなに木を伐採して…、植林してるんですか?」 当然、植林する余裕などなく伐採するのみであるが、日本の広葉樹林の約4割が放置林であり、放置するくらいなら植林など気にせず伐採した方がいいという研究者も多い。 放置するとどうなるか。すぐにうっそうと葉が茂り、光の差し込まない暗闇となる。暗闇だから下草が生えず、下草が生えないから地盤がゆるくなり土砂崩れの危険性が増す。外の明るさと比べた際の相対照度が40%から10%に下がると、森が保持できる降水量が毎時250ミリから100ミリに減少するらしい。最近頻発する土砂災害の一因がここにあるのではないか。 農林水産省は林業再生に向け、平成21年12月に「森林・林業再生プラン」を策定し、現在28.6%しかない木材自給率を50%まで引き上げようとしている。ここでの木材は住宅建材向けなどの針葉樹であるが、広葉樹林同様、放置林問題は深刻らしい。 今度、工場見学時に植林の突っ込みを浴びたら自信をもってこう答えよう。 「かつお節製造における木材自給率は100%です!」
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