761.工夫(2016.3.14掲載)
火星に置き去りにされた宇宙飛行士が、自給自足で生き延びる様子を描いた米国映画「オデッセイ」がヒットしている。 マット・デイモン演じる主人公は植物学者という設定で、自身の知識を生かして火星でのジャガイモ栽培に成功する。クルーの排泄物を肥料にするあたりはなかなかの脚色だったが、欲を言えばもう少し掘り下げてほしかった。 ジャガイモのでんぷんでパンやパスタを作ったり、加水分解で甘味料を作ったり、「大脱走」のマックイーンみたいにじゃがいも焼酎で酔っぱらったり。 低予算の日本映画だと、テレビドラマ「仁」の主人公が江戸時代の道具で現代の医療を再現したように、焼酎の発酵に挑戦するんだろうな。今回の製作費は123憶円。仕上がりはやはりド派手なハリウッド映画だった。 科学実験の世界でも、予算を抑えるための工夫は日常茶飯事。いや、予算が潤沢でも実験の工夫に喜びを感じる科学者は多いはず。 英オックスフォード大学の動物学者ファース博士らが調べた、「シジュウカラは愛と餌のどちらを選択するか」という実験の工夫が素晴らしい。シジュウカラは、ほとんどの時間を夫婦で一緒に過ごす。縄張りを見張り、巣を作り、食事まで一緒。愛と餌のどちらかを選べと迫られたシジュウカラは、どう行動するのか? 実験の設定はこうだ。奇数番号を記録したマイクロチップを付けた鳥だけが開けられる餌箱と、偶数番号を付けた鳥だけが開けられる餌箱の2種類を用意する。つまり、つがいの2羽がともに奇数または偶数のチップを付けていれば同じ餌箱を開けて一緒にヒマワリの種子を食べられるが、奇数と偶数に割れたつがいは別々の場所で食べなければならない。 研究チームは3ヶ月にわたって17組のつがいを観察した。うち、奇数と偶数に分かれて一緒に食事ができないペアが7組あった。この奇数偶数ペアが、片方が餌にありつけないにもかかわらず一緒に餌箱を訪れた回数は、奇数どうしや偶数どうしのペアが開けられない餌箱を訪れた回数の約4倍だった。 つまり、片方が餌にありつけなくてもペアは一緒にいたのだ。愛は勝った。そして、誰もがハッピーになる結果を証明したファース博士の工夫も勝利した。 …餌にありつけなかったペアの片方も、最終的には餌箱が開いている2秒間に身を乗り出して餌をせしめたという後日談付きで。
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