775.編集手帳(2016.6.20掲載)
コラム書きのバイブルとして、崇め奉りつつ日々拝読している読売新聞1面の「編集手帳」。その書き手である竹内政明氏の著書「編集手帳の文章術」を購入し、心に届く文章のツボを探ってみた。 「接続詞を安易に使わない」 虐待やいじめなど、痛ましい出来事を題材にした際、やり切れない思いや抑えてきた怒りを末尾に込めたとする。 A…怒りにまかせて飲む酒がうまくないのは分かっている。しかし、飲まずにはいられない夜もある。 B…怒りにまかせて飲む酒がうまくないのは分かっている。飲まずにはいられない夜もある。 「しかし」を省略したBの方が余情をたたえて点数が高いらしい。 なるほど納得だが、これはかなり難しいテクニック。 「尾頭(おかしら)つきで書く」 シェークスピアを引用して書き始めたらシェークスピアの引用で締めくくる。野球を引用して書き始めたら野球の引用で締めくくる。この、マクラ→本題→締めがわかりやすく表現されている事例を紹介する。 05年4月11日付…深海魚はいきなり海面に引き上げると内臓が飛び出る→途上国から海面に浮上した中国で格差などの矛盾や反日デモが飛び出す→中国という深海魚の生態を静かに、冷たく観察しよう。 07年10月17日付…桂文楽師匠の小言の流儀は、小言のタネを貯めておき一番小さなことを大きく叱ること→上司の叱責を苦にして自殺した社員に労災認定が下りる→苦を使うのも管理職の給料のうち、小言の芸を磨け。 3つ目として、個人的に「落語ネタが多い」を付け加えたい。 商いに出た若旦那が荷の重さに道でへたばった時、行きずりの人が唐茄子を売るのを手伝う「唐茄子屋政談」で日本人の情を語り、7月10日の観音様の縁日にお参りすれば、4万6000日分のご利益があるという「船徳」で季節感を演出する。落語ってインテリの芸能なんだ。 そして、2016年6月10日付の尾頭は古今亭志ん朝の「夢金」。ケチは愛嬌があるが欲張りになるってえと人の物まで欲しくなる→舛添さんはどっちかな→欲しいという気持ちが募ってくるってえと、道ならないことをやっちまう。こういう方は人が付き合ってくれない。 もちろん、接続詞なしの名作なのである。
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