779.当たって砕ける(2016.7.18掲載)
先日、ある銀行の紹介で大手カレーメーカーにだし素材をプレゼンする機会があった。 これまで全く取引のない新規先。どうせ銀行のムリムリなセッティングにいやいや担当者が出てくるに違いない。ならば捨て身のプレゼンで一発逆転を狙うべしということで、「リンゴの代わりにバナナ作戦」で突撃したのだ。 われら昭和世代にとって、カレーといえば「リンゴとハチミツとろーりとけてる」おいしさで、「ヒデキ感激〜」の味。そこで、リンゴでおいしくなるならバナナでもいいのではという仮説を立て、バナナ入りカレーを試作した。 意外とおいしい。人間の舌を機械的に再現した「味覚センサー」という分析機器にかけると、旨味もコク味もかなり優位に出る。これはいける。 はたしてプレゼンはややウケ。「ヒデキが感激したカレーのリンゴ、実はリンゴジュースの搾りかす。リンゴジュースが激減し、原料不足となっている今日ではバナナもありですね」との裏事情も教えてくれた。必要なのは繊維質らしい。 まずまずの手ごたえだったが、帰り際に「だし素材売らなくていいの?」と心配されてしまったのが心残り。 その翌週、同じ銀行が今度は大手スパイスメーカーのアポを取ってきた。こちらも取引ゼロにつき、当たって砕けるしかない。 今回の仮説は、「めんつゆに薬味を入れるとおいしくなる」。夏休みの理科研究よろしく、めんつゆに生姜、わさび、ねぎ、大根おろし、みょうがを加えて味がどう変わるかを検証したデータを提示し、商談を盛り上げようという算段だった。 ところが仮説に反し、あらゆる薬味がめんつゆの味を薄くするという結果が出てしまった。前述の味覚センサーによると、わさびが最も顕著に味を薄くし、コク味がなくなってしまうのだ。 ということは、薬味はつゆを「のどごしさわやか」な味に調整してくれているわけで、猛暑における食欲増進効果が検証できたことになる。この新説を提示してなんとかややウケ。 新規先への突撃プレゼン。楽しみながらも当たって砕ける日々は続くのである。
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