799.クリープ講義(2016.12.12掲載)
以前、東京大学の山内昌之名誉教授が「歴史を知ることで常識を知るという作業が行われていないから、支離滅裂な若者が出てくる」と、受験優先で歴史授業が未履修となる現状を嘆いていた。 さらに山内先生は、「論理的に歴史の流れを考える志向を軽視する風潮が、今の日本社会にあると思う。なぜ、歴史を学ぶのかということを教えないので、結局、ものごとの因果関係、筋道を考えられない日本人が増えている。とくに、若者の刹那的、衝動的な行動はこの点と無縁ではない」と語った。 なるほど、歴史を勉強しないからキレるんだ。 ということで、ロングセラー商品とその企業の歴史を学び、商品開発に活かすことにした。まずは森永グループ。 森永製菓がミルクキャラメルを発売したのは1914年。そして、大ヒットしたミルクキャラメルの主原料である乳製品を自社製造するために設立されたのが、森永乳業である。現在では森永乳業5948億円、森永製菓1779億円と、森永乳業の売り上げの方が大きい。 その森永乳業の主力商品がクリープ。1953年に生クリームを粉末化するという革新的技術を確立したものの、当時まだコーヒーは高級品。結局、発売はインスタントコーヒーが登場する1960年の翌年まで見送られることになる。 1961年4月、満を持してクリープ発売。この年、インスタントコーヒーの輸入が自由化され、流通量が爆発的に拡大。2年後には自由化前の100倍というコーヒー普及の追い風に乗り、クリープも大ブレークしたのだった。 そしてもう1つ。クリープはCMの歴史にも足跡を残した。昭和42年に登場した、「クリープを入れないコーヒーなんて」という芦田伸介氏のCM。当時、大物俳優は軽々しくCMに出なかったらしく、「商品を持たない、笑わない、カメラを見ない、しゃべらない」というむちゃくちゃな条件で出演をOKしたらしい。 歴史を学ぶと必ずそこには何かがある。ヒットのタネもある。歴史授業の意義を、もう一度山内先生に語ってもらおうではないか。 歴史を入れない履修科目なんて…。
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