804.腸内常在菌捜査官(2017.1.23掲載)
昨年放送されたNHKの土曜ドラマ「スニッファー 嗅覚捜査官」に、全国の香料研究者が熱狂した。 阿部寛演じる主人公が、犯行現場に残されたわずかな匂いを手掛かりに驚異の嗅覚で犯人像を特定し、逮捕に協力するストーリー。 犯人と絡みのある香気成分を表現するため、画面上に次々と有機化合物の構造式が登場。有機化学を専攻した小生も、画面に向かって「それは違うだろう」と熱くなったりしていた。 そんなマニアックな刑事ドラマのネタになりそうな研究が、理化学研究所で進んでいる。腸内常在菌研究である。 ヒトの腸には重さにして1.5kgもの細菌が棲んでいる。これらの腸内常在菌には善玉菌、悪玉菌、環境次第でどちらにもなる日和見菌が存在する。そして、その構成は年齢、性別、肥満度、食生活、運動習慣などの違いから個人差が極めて大きい。つまりは個人が特定できるかもしれないということ。 たとえば、主な腸内常在菌がフィルミクテス、ルミノコッカス、クロストリジウム、バクテロイデスという人物の生活特性は、「喫煙・飲酒なし、便秘気味、標準体重、60歳以上の女性」というところまで絞り込めるのだ。 ただ、「犯行現場に落ちていた犯人のウンチから腸内常在菌を検出し、容疑者を特定」という設定には無理がある。ドラマ「バクテリアン 腸内常在菌捜査官」の実現は難しそうだな。 実際のこの分野の応用は、肥満防止や健康長寿につながる予防医療である。遺伝的な肥満マウスの糞を無菌マウスに摂取させると、そのマウスの体脂肪が47%増加したが、やせ型マウスの糞では27%しか増えなかった。つまり、肥満を促進する腸内常在菌が存在したのだ。 他にも健康長寿につながる常在菌として、ビフィズス菌、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ、コプロコッカスなどの研究が進んでおり、長寿菌が特定されつつある。 確かに、犯罪捜査よりダイエットや長寿の方が人類にとってのメリットが大きい。 とはいうものの、「相棒」か「科捜研の女」あたりの一話完結枠で、腸内常在菌からの犯人逮捕をネタにしてもらえないかと願う日々なのである。
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