807.120歳(2017.2.13掲載)
空腹が長寿遺伝子のスイッチをオンにし、人間の寿命を延ばすのではないかという仮説は多方面で周知されつつある。 1日1食を励行しているタレントさんの若々しい姿を見るにつけ、80代でバリバリ現役を続ける戦中派の空腹譚を聞くにつけ、自然と食事量を減らしてしまう今日この頃。 マウスやラットなどの実験動物が餌を減らすと長生きすることは科学者の間で1930年頃から知られていて、40%長く生きた実験例もある。ただ、よりヒトに近いサルでの実験では、カロリー制限による長寿効果は得られていない。 いずれにせよ、長寿効果が出るであろう25%減の食事制限はかなりきつく、同等の効果が得られる薬剤の登場が待ち望まれていた。そして2001年、最も有望な老化防止機構が偶然見つかったのだ。 南カリフォルニア大学のロンゴ博士は、実験中の酵母に餌をやるのを忘れたまま旅行に出かけたのだが、飢餓状態に置かれたこの酵母が通常より長生きしたのだ。そして「mTOR」と呼ばれる代謝経路の飢餓による遮断が、長寿の真因であることがわかった。 都合のいいことに、「mTOR」経路を遮断する薬剤としてラパマイシンという抗生物質がすでに報告されていた。つまり、ラパマイシンの投与で寿命が延びるかもしれないということ。 はたしてラバマイシンを投与したマウスは25%長生きした。さらに、20ヶ月齢を超えてから投与を始めたマウスも寿命が延びた。これは70歳から薬を与えて95歳まで長生きさせたようなもの。すごい。 健康な90代の人は「mTOR」の活性が低いというオランダの研究も追い風となり、免疫抑制剤として発売中のラパマイシンが不老長寿の秘薬に昇格したのだ。 ただ、免疫抑制剤だけに感染症という副作用もあり、これを回避する低用量投与の動物実験も始まっている。寿命研究の行きつく先やいかに。 一説には、生物の「成人まで:成人以降」の長さ比は「1:5」と言われており、人間は20:100、つまり120歳まで生きられるのかもしれない。 宇宙旅行の実現を夢見つつ、ラパマイシンを飲む予定なのである。
\\\\
|
column menu
|