808.昭和男(2017.2.20掲載)
靖国神社公式参拝の際、必ず立ち寄るよう心掛けているのが九段の昭和館。 昭和館は、その名の通り「昭和」を展示する博物館だが、九段という場所柄、展示品は戦中戦後に特化(昭和10年〜30年頃)。運営する財団法人日本遺族会のコンセプトが明確に伝わる熱い施設なのだ。 戦争を知る世代がいなくなると戦争が始まるとよく言われるが、1975年に1:1だった戦前生まれと戦後生まれの比率は現在2:8。 語り部がいなくなる前に戦時下の暮らしを学ばねば。 まずは予備知識。昭和20年の人口は7214万人で、1世帯当たりの消費支出は月2125円(現在は約25万円)。食糧難で摂取エネルギーに占める脂質の割合は7%しかなかった(現在は25.9%)。 そして、心を整えて6階と7階の常設展示室へ。戦中戦後グッズ満載だが、ガラス越しの展示だけに豊後高田市「昭和の町」や新横浜「ラーメン博物館」のようなレトロ気分にどっぷり浸る雰囲気ではない。 その代わり、戦時下の暮らしの細部が勉強できる。職場の最古参がよく口にする「配給切符」「すいとん」「隣組」「代用品」「虫下し」などの実態と背景が、実にリアルに学べるのだ。 かつお節屋の長老が問わず語りに思い出す「国民学校」についても勉強できた。昭和16年4月に「尋常小学校」と「高等小学校」が「国民学校」に変わり、初等科6年、高等科2年で皇国民を錬成。優秀な生徒は東大より難関といわれた「陸軍士官学校」や「海軍兵学校」を目指した。 教科を見るとかなり濃厚である。国民科の「修身」、体練科の「武道」、芸能科の「家事」、実業科の「水産業」などは、平成の御代でも渇望される最重要科目ではないか。 戦中派の涙腺をくすぐる貴重な展示品の数々であるが、時々、ふと我に返る展示に出くわす。手回し式のローラーで脱水する洗濯機、トースター型の木製あんか、氷冷蔵庫、蓄音機…。むかし、家で使っていたものがけっこうあるではないか。幼時の記憶は、もはや博物学なのか。 懐かしさと寂しさに揺れながら、九段坂を後にする昭和男なのであった。
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