826.順番(2017.6.26掲載)
しばらく牛肉断ちをしていたら禁断症状が出始めたので、すき焼きを爆食することにした。 めざすは東京都中央区新川にある「牛幸(うしこう)」。永代通りの裏筋にひっそりとたたずむ牛幸は、文明開化時、牛肉に歓喜した明治人の息吹が染みついたような木造家屋ですごくシブイ。池波正太郎先生の著書「むかしの味」に登場しそうな佇まいである。 肉は霜降り米沢牛。仲居さんが手際よく鉄鍋に脂を敷き、まずはネギ。そして野菜。その上に肉、割り下、だし汁。ご存じ関東スタイルの順番である。 関西は最初に肉を焼く。割り下は使用せず、だし汁、砂糖、みりん、醤油、酒など、割り下の原料となるものを「さしすせそ」の順番に入れる。 さしすせその順番(砂糖、塩、酢、醤油、味噌)には、浸透しにくい材料を先に入れ、香りの飛びやすい材料を後から入れるという根拠があるが、すき焼き肉の順番にはどんな意味があるのだろう。すき焼きという名前から考えると最初に焼く関西風が本筋か。語源も、鋤(すき)の上で肉を焼いたことに由来するらしいし。関東風は牛鍋だな。 食品ネタで「順番」とくれば、昭和人が連想するのは給食の「三角食べ」。ごはん(パン)→おかず→牛乳という順番の食べ方に根拠はあったのか。先生がしつこく連呼していたのを思い出す。 最近は、血糖値を気にして野菜を中心としたおかずを先に食べ、ごはんを最後に食べる「ベジファースト」が注目されている。けど、やってみると「しろめしラスト」は結構きつい。 ところで、すき焼きのおいしさは具材の投入ではなく、取り出す順番にあるように思う。専門店だと絶妙のタイミングで仲居さんが肉を取り出し、卵の入った小鉢に落としてくれる。そして、野菜、豆腐ときて寂しくなった頃にまた肉。すき焼きが煮込みにならないよう、味のしみこみ加減に気を配りながら取り分けてくれる。団らんの鍋奉行にはできない技である。 けど、これって三角食べじゃないか。給食の三角食べは日本の食文化に根付いた行為だったのか。 またしても給食のトラウマが影を落とした昼下がりなのであった。
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