833.花咲かじいさん(2017.8.21掲載)
植物に音楽を聴かせるとよく育つ、というような怪しい話は昔からある。 かくいう私も、ワイン蔵でモーツァルトを流して熟成させるニュースに刺激を受け、かつお節のかび付け時にバッハを流したりした。かび付け庫の湿度95%にラジカセが悲鳴を上げ、実験は頓挫したが…。 実は、こんなエセ科学のような話が最近肯定されようとしている。 西オーストラリア大学の研究チームは、エンドウマメの苗がパイプ内を流れる水の音を検知し、水が手に入らないにもかかわらずパイプに向かって根を伸ばす現象を確認した。 また、米国オハイオ大学の研究チームは、シロイヌナズナ属の植物にイモムシが葉を食べている音を聞かせると、毒素を作り出す量が増加するというデータを得た。 さらに、ハチの羽音が植物の葯(やく)からの花粉放出を促すデータもある。 植物は音を感知しているのだ。とすると、「枯れ木に花を咲かせましょう」という花咲かじいさんの掛け声を理解してくれるかもしれない。なにせ、植物学者の夢は、いつでも花を咲かせられる「花咲かじいさんの灰」を作ることなのだから。 植物が花を咲かせる際に関与しているのは「フロリゲン」というタンパク質。葉が日の長さを感知し、フロリゲンを介して茎の先端に「花を咲かせるのに十分な日の長さになった」ことを伝達するのだ。 現時点では、まだフロリゲンを製剤化できていないため、植物への応用はアナログで日長時間を操作するしかない。 例えば秋の短日を認識してフロリゲンを合成し花を咲かせるキクは、電照によって日を長くして夏と勘違いさせ、花芽の形成を遅らせて周年供給を可能にしている。 また、北海道で稲作が可能になったのは、フロリゲンの量を増やす品種改良で早く花を咲かせ、寒くなる前に収穫できるようにしたから。 音を認識したり日の長さを認識したり、植物の能力は凄い。 こんな話を若手研究者の研修ネタで熱く語ったのだが、どうもうまく伝わらない。感想を聞くと「花咲かじいさん」の話など知らないという。やつら、「はらぺこあおむし」みたいな高尚な童話ばっかり読んでやがった。 やれやれ。人材の花を咲かせるのもひと苦労なのである。
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