856.うなぎ屋(2018.2.12掲載)
サラリーマンに聞いた「憧れの職業ベスト3」というのがある。 それは、プロ野球の監督、オーケストラの指揮者、馬主。 ふむふむ、確かに3つとも魅力的な職業だ。それぞれ、スポーツの努力、芸術の努力、金儲けの努力が結実した姿であり、私もなりたい。ソニーの経営者でありながらタクトを振っていたオペラ歌手出身の大賀典雄氏なんて、さしずめサラリーマン憧れの的だな。 別のアンケートで「定年後にやってみたい職業」というのがあって、意外にも「蕎麦屋」と「うなぎ屋」が上位に来ていた。 初老の紳士が作務衣で蕎麦打ちってのはまあまあ様になるが、うなぎ屋はキツイぞ。なにしろ身開き3年、串打ち5年、焼き一生の修行道。半端な志じゃ続かない。なぜうなぎ屋なんだろう。 てことで、うなぎの老舗、神田「きくかわ」の暖簾をくぐった。 うなぎ1尾の「うな重イ」が3250円。1.5尾のロが4260円で2尾のハが5380円。きくかわ独自の養鰻池を持っているというだけあって、魚質は最高。口に含んだ瞬間とろけて消えた。諭吉も消えた。 うなぎはもはや絶滅危惧種。うなぎ屋も絶滅危惧店。世界中のうなぎの7割を日本人が食べるのだから何らかの手を打たねばならないが、生態は謎だらけ。 生まれは太平洋のマリアナ海域ということは解明された。レプトケファルスと呼ばれる仔魚で北上し、シラスウナギと呼ばれる稚魚で日本の川を遡上。これを12〜4月の漁期に捕獲するのだが、今年のシラスウナギ漁は昨年の100分の1と大不漁。 今年の稚魚はキロ当たり200万円くらいになるのではないか。キロ500万円の金よりは安いが、キロ10万円の銀より高い高級稚魚。 あっ、そうか。前述の定年後アンケートで出てきた「うなぎ屋」は飲食店ではなく、シラスウナギの捕獲だったんだ。自治体や漁協で許可証をもらえば枠内で誰でも参加でき、1晩10万円の水揚げも可能らしい。 あなごの稚魚「のれそれ」を食べながら、定年後を妄想したのである。
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