867.農業のデメリット(2018.4.30掲載)
今から1万1千年前、人類が数十万年間続けきた狩猟生活を農業に移行したきっかけは、ちょっとした偶然だった。 100個に1個程度発生する、「ハゼない豆」をたまたま見つけて持帰り栽培。ハゼないから豆が効率よく収穫でき、ヒトは農耕へと舵を切ったのだ。 農業が発達すると食糧が備蓄できるから、人口は増加する。単位面積あたりの収穫量は狩猟に比べ百倍〜千倍。その上、全員狩りに出る狩猟と比べ農業は分業が可能。発明家や技術者などの特殊技能者を養えるようになって、社会は発展した。 一見いいことばかりに見える「農耕文明」だが、歴史的デメリットがいくつかある。 例えば家畜由来の伝染病。天然痘はラクダ、はしかは牛が起源とされる。 そして余暇の消滅。気ままな狩猟生活に比べ、農業には休みがない。 栄養が偏るリスクもある。狩猟生活だった3万年前の人類の平均身長は177センチ。これが農耕の発達によって肉食が減り、161センチにまで縮んでしまった。現在は174センチに回復。 最も深刻なデメリットは、社会の不平等と地域間格差という現代に通ずる社会問題。 狩猟民族は意外と平等で獲物を分け合うが、農耕民は違う。仕事の分業化と並行してリーダーが出現し、富と権力が集中し始める。米国の上位0.1%の収入と下位50%の収入が同じという格差は、ここに端を発するのだ。 地域間格差も農業に起因する。メソポタミア地方の肥沃な三角地帯で生まれた農業は、中国やローマ帝国など同緯度地域を水平移動して伝搬した。気候が同じだから東西の伝搬は早い。 対して、南北に長いアフリカは伝搬が困難で貧困地域が多くなってしまう。もちろん肥沃な土壌の欧州に比べてアフリカの乾燥土壌はハンデありすぎだが。 農業が貧困を生んだという皮肉な因果ではあるが、地球上で農業を営むのはヒトとハキリアリのみ。 葉を切って巣に運び、断面に生育する菌を育てるハキリアリ。貧困や格差問題はあるのかな、と想像してしまうのである。
\\\\
|
column menu
|