869.発酵と腐敗の間に(2018.5.14掲載)
日本の伝統食品の多くがそうであるように、かつお節も発酵食品である。 ただ、発酵食品であることがあまり知られていないため、クイズ番組の問題にされたことがある。 「かつお節はかつおにかびが生えたものである。○か×か」 私は「×」と即答したが、番組での正解は「〇」。その場でテレビ画面に向かって絶叫した。問題がいいかげん過ぎるぞっ。 そもそも、「煙でいぶした荒節と呼ばれるかつお節にかびを生やしたものが枯節と呼ばれるかつお節」であり、鮮魚を想起する「かつお」にかびが生えちゃったら、発酵ではなく腐敗じゃないか。 まぁ、変なクイズ番組のおかげで、出前授業で発酵をレクチャーする時のネタができた。 かつお節が世に登場した江戸時代初期、冷蔵庫がなかった当時は荒節では日持ちせず、かつお節の消費は生産地周辺に限られていた。 それが元禄時代、たまたま優秀なかびにやられてしまった運のいいかつお節がいつまで経っても腐敗せず、おまけに味や香りも上々ということで、かつお節の発酵法が確立したのだ。 かびが生えた方が保存性が向上するという逆転の発想。「腐っている」と早合点して捨てないで、発酵へと昇華させた江戸人の勇気が食文化を生んだことになる。 かつてのヒットアニメ「セーラームーン」の主題歌の一節に、「偶然もチャンスに変える生き方が好きよ」というのがあったが、まさにその通り。偶然の腐敗を発酵という製法に変える生き方、いや勇気が好きよ。 しかし、わらの中で糸を引く煮豆(納豆)を最初に食べた鎌倉人はもっと凄いと思う。生半可な生き方や勇気では、そんなチャレンジはできない。 恐らくは、飢えを凌ぐためにやむなく口にしたというのが本当のところだと思うのだが、いずれにせよ、腐るという失敗なくして発酵食品の誕生はなかったのだ。 アニメとはいえ、セーラームーンはなかなか奥が深いのである。
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