873.科学の力(2018.6.11掲載)
私の弟は、異常なまでの昆布茶好きである。 舌の奥の方に絡む、あのまったりとした味がたまらないと言い、時には梅干しなんかをトッピング(といっても沈むが)してしまう。 あくまで好みの問題だが、渋いのか塩からいのか甘いのか旨いのか、ちょっとだけはっきりしてもらいたいのが昆布茶だと思う。 ところで、昆布の旨味成分であるグルタミン酸ナトリウムは緑茶にもかなりの含量で含まれており、昆布を緑茶のようにして使用するのは、あながちズレた発想ではない。また、高級な緑茶ほどグルタミン酸ナトリウムの含量が高いため、いいお茶は昆布っぽいという図式も成り立つ。 昆布だしの効いた湯豆腐をつつきながら緑茶をすする。日本人的には最高の情景であるが、もうひとつこの場に加えて欲しいものがある。 それはかつお節。かつお節の旨味成分は、グルタミン酸ナトリウムとは出自の違うイノシン酸ナトリウムだが、この2つの旨味成分を同時にとると、それぞれ単独でとる場合よりはるかに強い味となる。 1+1が2でなく8になる感じであり、我々はこれを「だし算」と呼ぶ。 このだし算を応用したのが昆布とかつお節の合わせだし。そして、グルタミン酸ナトリウムとイノシン酸ナトリウムの純品をブレンドした「化学調味料」も台所には欠かせない。 しかし、この化学調味料、「化学」と名付けてしまったばっかりに天然志向の食卓からは敬遠されがちな存在となった。この呼称は、NHKの料理番組で「味の素」や「ハイミー」という商品名が使えないために付けられた造語。 名付け親は、文化住宅や文化包丁における文化。あるいは、万能なべや万能たわしにおける万能という枕詞的存在を、この化学という言葉に託したのかもしれない。 それならついでに、ミキサーを物理調味料、食塩を地学調味料、味噌を生物調味料と呼んでみてはどうか。 料理は科学だと主張する料理人が増えてきている。調理実習が家庭科ではなく理科の実技になる日がくるかもしれない。 そんなことを妄想しながら、昆布茶を隠し味に使用した和風パスタを堪能した次第である。
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