878.最強サラリーマン(2018.7.16掲載)
先日、ある学会誌で「山を捨て町へ出よう」というフレーズで締めくくられた論文を発見して嬉しくなった。 ご存知、寺山修司の「書を捨てよ、町へ出よう」のパロディー。 間違いなく寺山ファンであろう執筆者は鹿児島大学農学部の研究者で、内容は、田舎のポプラより都会のポプラの方がよく育つというしゃれた栽培学だった。 遺伝的に全く同一のクローンポプラを田舎と都会に植え、3年間の成長を調べたところ、大方の予想に反して都会のポプラの方が2倍も成長が早かった。 その要因は土壌でも気温でも炭酸ガス濃度でもなく、オゾン濃度。都会では多量の窒素酸化物がオゾンと反応し、田舎よりオゾン濃度が低くなっているらしい。有害な窒素酸化物のおかげでこれまた有害なオゾンが減り、結果、ポプラがよく育ったのだ。 毒をもって毒を制す。皇居や御苑の緑が深いはずだ。 ならば、田舎のサラリーマンと都会のサラリーマンではどちらがよく育つのか。これも、毒をもって毒を制している都会のサラリーマンに軍配が上がるに違いない 例えば毎日終電を満員にする過剰残業と自虐的痛飲。例えば普通に生活して軽く1万歩は歩く健脚通勤生活。例えば抜け道の達人的活用で常に左脳が活性化される慢性的渋滞。 こんな適度な毒のおかげで、都会のサラリーマンは逞しくなっていくのではないか。都会暮らしを2度経験した筆者だが、毎日爆飲する割に、都会時代の方が健康診断の数値がよかった。 寿命の研究者が「快適すぎる気候、快適すぎる環境はかえって体を老化させる」と言っていた。また、顔のしわを取るプチ整形は、最強の食中毒菌であるボツリヌス菌毒素の注射である。そして、一人の悪役が存在することで組織が活性化することは周知の事実。 毒をもって毒を制す都会のポプラとサラリーマン。どちらも、混迷の世を生き抜く最強種なのかもしれない。
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