889.おたんじょうび会(2018.10.08掲載)
昭和40年代後半、田舎でもぼつぼつ「おたんじょうび会」なるものが出現し始めた。 何人かのパーティーにお呼ばれし、窮屈な食事と不自然なゲーム大会(人生ゲームや野球盤)に疑問を感じ始めた私は、カジュアルなおたんじょうび会を企画したくなった。「今度の日曜日ちょっとウチに来ない?」と、主旨を告げず7人に声をかけた。 しかし、カジュアルすぎて来てくれたのは2人。おまけに「言ってくれなきゃプレゼント買えないじゃん」と責められた。 以後、変に気を遣うのをやめ、物欲のままにプレゼントを享受する人間になってしまった。小学4年の秋、人生唯一のおたんじょうび会の想い出である。 わが実家の場合、誕生日といえば「鶏の足」。アルミホイルを巻いてかぶりつくまるごとスタイルは、当時にしてゴージャス。今では惣菜屋の片隅で安っぽい照りを放っている鶏の足だが、昔日の食卓で主役を張った年数回のハレ食材の味が今も忘れられない。 日本能率協会総合研究所が実施した「家族イベント・ごちそう調査(首都圏男女600人対象)」によると、ごちそうだと思うメニューのベスト5は、ステーキ、にぎり寿司、すき焼き、ふぐちり、しゃぶしゃぶで、家族イベント登場メニューのベスト5は、にぎり寿司、刺身、フライドチキン、天ぷら、ちらし寿司だった。 鶏の足なんて、40位以内にもなかった。実家ではついこの間まで鶏の足だったぞ。 そして、実家でもう1回鶏の足が登場する日がある。それは9月1日の防災の日。1923年、東京電気学校(今の東京電機大学)に通っていた祖父が関東大震災で校門の下敷きになりながら脱出、九死に一生を得たことをお祝いする日である。 祖父が瓦礫の下からはい出さなければ一族の誕生はなく、今夜の鶏の足もなかった。 だから9月1日が一族の「おたんじょうび会」。私の誕生日の前日というところが、なんか輪廻転生っぽくていいと思うのである。
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