892.水分と戦う(2018.10.29掲載)
乾物づくりはその名の通り水分との戦いである。 のり、かんぴょう、しいたけ、昆布、するめ、かつお節。どれも、たっぷり含まれる生原料の水分をいかに効率よく減らしていくかがポイントとなる。 例えばかつお節。 生のカツオの水分は70%で、煮ると65%。これを毎日燻して10日がかりで水分20%にまで落とす。しかし、ここからが正念場。常温でも腐敗しない水分13%前後にまで下げるには、人力ではもう無理。 そこで微生物の力を借りる。かつお節かびを表面で繁殖させ、半年かけてゆっくり水分を吸ってもらうのだ。夏場はかびも喉が渇くらしく、水分の低下も早い。 喉が渇くといえば、中学校で体育教師をやっている友人が「夏の部活動は水分補給との戦いだ」と言っていた。昨今の熱中症対策が浸透し「水を飲むやつは根性が足りない」式の指導をする教師など当然いないが、いかに効率よく水分を取らせ、身体能力を引き出すかが指導者の腕にかかっているという。 サラリーマン社会でも昼間の水分摂取がまあまあ周知されてきたが、そのせいでアフター5のビール需要が落ちてしまったらしい。喉乾かず、お腹ちゃぷんちゃぷんじゃ「のどごし爽快生ビール」の悦びは味わえない。 ちなみに、人間の水分は成人男性で65%(生後すぐは80%、中学生だと70%くらい)、成人女性で55%。部活動なんかで1%水分が減ると喉が渇き、2%減で脱水症状、4%減で情緒不安定になり、8%不足すると精神錯乱や呼吸困難が起こる。 水は生命活動の根幹を成している。水を断って炎天下のグラウンドを駆けていた40年前。今考えると恐ろしい。 件の友人曰く、「水分補給はゆっくり少しずつが基本」。一度に大量補給すると、体内での吸収効率が落ちるのだと。 これは、乾物づくりにも共通している。「乾燥はゆっくり少しずつが基本」。急激に水分を落とすと、乾物の品質は確実に落ちるのだ。 乾物と部活。水分との戦いに意外な共通点が見つかった猛暑の終わりである。
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